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安任が経営していた牧場は青森県の谷地頭にある。明治五年(一八七一)に開かれた牧場に、四朗も最初期から通訳として携わり、現在は安任の甥である辨二が社長に就任して、安任は谷地頭の牧場から離れることになった。
「まずは、広沢牧場の東京出張所の開設をお祝いいたします」
四朗の礼に対し、安任は短い唸りを返した。
「この辺鄙な場所へ、わざわざ礼を言うために来るとは。ありがたいが、忙しいのではないか、東海散士」
四朗の筆名を呼ぶ声には、いささか面白がる響きがある。
「まだまだ続くのだろう。私も読んでいるが、続きはいつ出るのだ」
「はあ、それはまあ、おいおい」
巷では坪内逍遙や二葉亭四迷が注目され、自身も政治小説の騎手と呼ばれてはいるが、あくまで秘書官としての仕事に重きを置いている。政治小説は自身の思いや経験を書き残したいがためだし、最終的な目標は小説家ではない。
「老人を慰問するのも良いが、読み手をあまり待たせるものではないぞ」
「そうですね。戻ればなるべく早く執筆を始めますが、今日は単に、あなたの様子を見に来ただけではない」
「どうした、牛の世話でもする気になったか」
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