序章 星宿

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 鹿鳴館は、そうした野蛮な時代を脱して文明国となったことを示すための象徴で、西洋風の舞踏会も頻繁に開かれているという。  一方で、英語を正文とする法典や裁判制度を整えることなどが反発を呼び、もう一つの不平等条約、関税自主権の喪失に関しては全く触れられていない。勝と谷は、このことに反発していた。 「私はあの方々の行動を支持したい」  四朗は安任の落ちくぼんだ目を見据えて言った。関税自主権がないということは、国際社会の中で自国の利益を思うままに求めることができないということだ。思いを通せない国の暮らしは厳しい。アメリカ留学中に広がった視野で気づいたことである。 「四朗、お前はこの老いぼれを誘いにきたのか」  微笑する安任の両目は油断なく見開かれている。穏やかな態度の裏に、豪気の質が寄り添っている。四朗は体が縮むのを感じた。 「東京まで出てきたのは、隠居のためではないのでしょう」 「いかにも。しかし何故私を再び政治へ誘うのだ」 「あの辛く絶望的な日々を乗り切ったからです。私がよく知っている」
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