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青臭いと一蹴されても構わないと思った。今でも社長と呼ぶのは、安任の持てる力に惚れ込んだからであり、その力は簡単に埋めてはもったいないと感じている。
「四朗、政治の世界は辛い」
安任の低い声には、実感を含んだ重みがある。
「人生の晩年を賭けてきた仕事にも、無理せずに携われる。とても恵まれた環境なのだ」
「それを手放すのが惜しいと?」
「京都にいた頃、私は側用人に取り立てられたことがある。栄転なのだが、私は不満だった。公用方として駆け回ることに生きがいを感じていたからだ。その時の情熱は、まだ残っているような気がする」
「では、何をなされるのでしょう」
安任の、未だ燃え尽きない思いに触れ、期待に胸が膨らむのを感じながら四朗は先を促す。そうして開かれた口は、四朗には思いもつかない言葉を紡いだ。
「来年の選挙に出馬しようと思う」
一瞬言葉を失った。四朗が望む条約改正反対運動は充分に政治的な活動だが、直接的に政治と関わりを持つわけではない。安任は更に先へ踏み込んで、自ら政治世界へ自身をさらそうと言うのだ。
「何故そのようなことを」
「現在の政治に不満があり、その改善策を持っているからだ」
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