第二部 朔風 四

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 気温が上がる日もあるが、湿った風が吹くことはない。束の間の過ごしやすさを感じられる時期であったが、下北半島はもうすぐ冬支度の時期を迎える。ひどい時には建物を覆い隠すほどの雪が降る土地では、動けなくなる前に冬を迎え撃つ準備が必要になる。  準備と言えば、自分自身のこともあった。  野田と大久保によって布告が為され、旧斗南藩士は否応なしに新たな生き方を見つけなければならなくなった。束縛するものはないが、経済的な制限はある。最大で十円の金銭的な支援があるとはいえ、それは資本としては心許ない。失敗した場合の備えにはできないだろう。  現実的なのは県庁に勤めるなどすることだが、競争は激しく勝ち抜ける保障はない。まして、八月二八日には身分制度が廃止された。職業の選択に制限がなくなったのは斗南だけの話ではなくなったが、士族となった武士以外の平民たちとも競わなくてはならないことを意味する。
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