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起
日本に一時帰国することを知らせると、彼は空港まで迎えに来てくれた。
午後6時。
涼しい風が吹いていた。
夏の余韻を残した涼しい風は、季節の変わり目を感じさせる。長い間日本を離れていたが、四季の移ろいを肌で感じることができて、なんだか少しホッとした。
彼の車に乗り込むと、懐かしい匂いがした。
3年ぶりの再会だというのに、彼はなかなか目を合わせてくれない。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「あぁ、相変わらずだよ。そっちは?」
「...相変わらず...かな。」
「そうか。」
私もそんなに喋る方ではないと思うが、彼は更に口数が少ない。
3年分の近況報告会は、お互い「相変わらず」と言う言葉で済んだ。
やはり彼の隣は居心地が良かった。
そして、彼の寡黙なところが好きだったことを思い出した。それと同時に、本当の事は言葉の裏側に隠すへそ曲がり男だと言うことも。
ふと運転席の彼に目をやると、昔より伸びた髪のせいか、より一段と「大人の男性」になった気がした。
「窓、開けてもいい?風がすごく気持ちいいの。」
「いいよ。」
「...あれ、雨の匂いがする、さっきはしなかったのに。もうすぐ降るのかな?」
「雨予報は出てなかった気がするけどな。」
「相変わらず雨男ね。」
「そんなことないよ。」
その後特に会話もなく、しばらく車内から流れる景色をぼんやり眺めていた。飛行機での移動疲れもあったのか、私はいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
どのくらい眠っていたのかはわからないが、ほんの一瞬だったような気がする。
車のワイパーの音で目が覚めた。
フロントガラスに、小雨が音を立てずに当たっていた。
「...ほら、やっぱり!あなた雨男じゃない!」
「なんだよ、鬼の首を取ったみたいに喜びやがって。」
彼はバツが悪そうな顔をして笑う。
「なんであなたと過ごす日はいつも雨なんだろう。」
「さあ?俺が聞きたいくらいだよ。」
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