3/3
前へ
/8ページ
次へ
ふと目が合った。 目が合っただけなのに照れ笑いをする2人は、まるで付き合いたての恋人みたいだった。 「昔と変わらないな、その微笑みかけるような口元。その優しい口元が好きだったんだ。」 「なによ急に。あなたがそんなこと言うなんて。」 「3年前、最後にお前がこの部屋から出て行った時、なに一つ気の利いた言葉が言えなかったんだ。ずっと心残りだった。辛いのは俺だけじゃなかったはずなのに。お前は、強いな。尊敬するよ。」 「ううん、ちゃんと伝わってたよ。あなたは無口だから勘違いされることも多いかもしれないけど。あの日もあなたに背中を押されて部屋を出て行ったんだよ。」 「そうか、ありがとう。」 会話が止まれば、雨の音だけが聞こえる。 まるでこの部屋だけ、時間がゆっくり流れているようだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加