風呂場にワープゲート

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 風呂場にワープゲートが出来た。  工事会社のミスだ。  テクノ歴797年。  長距離空間移動が実用化されて久しい。  今やワープゲートはテレビや冷蔵庫と同じく、家電の一種となった。  仕事場や学校、スーパーや行きつけの居酒屋。生活する上で訪れる頻度が高い場所は、(ほとん)ど家からワープゲートを介して行き来される。  家電と言っても、大きな機械を設置するわけではない。  空間にちょっと傷を付けて穴を空け、人が通れるくらいのサイズにして固定する。空間の穴は人間には視認できないので、一見そこには何もないように見えるが、穴のある場所に手を突き出すとずぶ、という音がして手の先が消える。全身をくぐらせると、目の前に目的地が現れるというわけだ。多くの場合、目的地を入力するための小さなタッチパネルが近くに設置されていて、空間座標を登録しておけばいつでも行先を切り替えることができる。    工事完了の連絡を受けてアパートの自室に戻って来た僕は、唖然とした。  作業報告書に、ワープゲートを風呂場に設置したと書かれていたからだ。  貧乏大学生の僕は、格安の学生アパートに住んでいる。一応トイレも風呂も部屋に着いてはいるが、壁が薄く隣の住民のいびきが聞こえるような物件だ。  先月、アパートの大幅改修が決まり、ついでに全部屋にワープゲートが管理会社持ちで設置されることになった。  僕はその知らせに歓喜し、今日、工事が行われる日中の間を大学の図書館で潰した後、新たな我が家に帰って来たわけだが、まさか風呂場にワープゲートが設置されることになるとは思わなかった。  「玄関か居間の空いてる所でお願いしますって言ったんですが!?」  管理会社への問い合わせは、無情な返事であしらわれた。  「申し訳ございません。玄関にも居間にも荷物が散乱しており、空間拡張工事に必要なスペースが確保できなかったため、唯一場所が空いていた浴室に設置させていただきました」  電話の向こうでAIの機械音声が冷静に応対する。僕は言葉に詰まった。  残念ながら言われていることは正しかった……大量のゴミ袋。衣類を無造作に詰め込んだカラーボックス。引っ越しの時から開けていない段ボール箱の山。洗濯物を下げっぱなしのハンガーポール……僕はお世辞にも整理整頓が得意とは言えない人種であった。  今朝、工事開始ギリギリの時間に起きて、着るものもとりあえず慌てて家を出たものだから、工事のためのスペース確保などしているはずもなかった。工事は機械によって全自動で行われるので、その辺りの融通はきかなかったようだ。  「それにしても風呂場って……」  「ご希望であれば再工事をさせていただきますが、管理会社様の方からご依頼いただいた工事の方は既に完了しておりますので、再工事の場合はお客様の自己負担となります」  うっ、と声が漏れた。管理会社もそこまでは面倒を見てくれない。ワープゲートの設置費用は個人用の小さなものでも、僕のバイト代3カ月分に相当する。  「……いいです」  僕は溜息とともに電話を切った。  かくして、風呂場にワープゲートが出来た。工事会社のミスだ。  ……厳密に言うと、僕のミスだ。  「そいつは災難だなあ」  画面上の3Dモデルを変形させながら、友人は笑った。  「笑い事じゃないよ。朝起きて授業の準備して、よし行くか! って状態でカバン持って風呂場に向かう時の間抜けさったらないよ。それに風呂場に空間の穴があると思うと、風呂に入ってる間も落ち着かない」  僕も愚痴を漏らしつつタブレットに向き合い、背景のグラフィックを調整する。  風呂場にワープゲートができてから数日。僕たちは大学で3Dグラフィックデザインの実習中だ。  「はい、そこまで。完成した人は提出してください。まだの人は来週の水曜日までに送ること。では解散」  チャイムが鳴り、画面上のモデルと格闘していた生徒がわらわらと教室を出ていく。僕は作成中のデザインデータを保存してタブレットをカバンにしまい、友人と共に教室へ出た。  運動用のアリーナへ向かう廊下で、僕は反対方向へ曲がった。  「今日も運動実習、来ないのか」友人が声を掛けてくる。  「ああ、今日は帰るわ……また明日」  僕は友人と別れ、大学を後にした。  スマホを取り出すと、通知が来ていた。見覚えのあるアイコンで、バイト先で新メニューが出たから来ないかという主旨のメッセージが見えた。  僕は小さく舌打ちをして、画面を閉じた。  ……彼女と別れて一カ月。お互い気持ちの整理を付けて別れたはずだったのに、たまにこうして整理しきれなかった気持ちが、中途半端なメッセージになって届いてくる。  彼女とは、うまくやれてたと思う。  たまたま入った喫茶店で知り合った。彼女は店員で、突然の雨で慌てて雨宿りしに来た僕を迎えてくれた。当時は部屋にワープゲートが無かったので身体を拭くものを取りに帰ることもできず、途方に暮れていた僕に、彼女はタオルを差し出してくれた。  「水も滴るなんとやらって言いますけど、そんなこともないですね」なんて悪戯っぽく笑って言われて、僕もつられてずぶ濡れのまま笑ってしまった。  それから同じ大学に通ってることが分かって、しばらくして付き合い始めた。彼女は僕のだらしないところをからかいつつも心配してくれて、そんな彼女の子供っぽい笑い方が僕は好きだった。  たまに隣に座って授業を受けて、帰り道に何でもない事を話して笑って、休みの日に一緒に遊びに行ったりして……。  仲は良かったんだ。本当に。お互いのことを真剣に思いやっていた。  だからきっと、こうなった。  「進路変えるって、本当なの?」  ある日、彼女は心配そうな顔で言った。  「そうだよ。大丈夫だから、心配しないで」僕は彼女の顔を見ずに答えた。  「心配するでしょっ!」彼女は少し怒ったような声で言った。  「ここ一週間くらい連絡なくて、それだけでも何かあったのかなって思ってたのに、学校でも会えないし……そしたら急に進路変えたなんて噂聞いて、びっくりしたんだから。なんで話してくれなかったの?」  僕は答えに詰まった。言わない方が良いと思ったから……そう言って納得してくれるようには思えなかった。それに進路を変えたってこと自体は、どんなに隠してもいつかはバレることだった。  「ずっと目指してたじゃん、体育の先生。機械学習じゃ経験できない、人間にしか教えられないスポーツの魅力があるからって。運動実習だって頑張ってたのに、最近は出てないっていうし」  「こっちにも色々、心の準備があるんだって。進路なんて個人の問題なんだから、話しても仕方ないって思っただけだよ」  「仕方ないことないでしょ!」彼女はぴしゃりと言った。  「そんなに大事な事、相談してほしかったって思うじゃん」  「人に相談するって、言うほど簡単じゃないんだよ」  彼女の顔から眼を逸らし、僕は呟くように言った。  「俺だって色々考えてるんだよ……そっちが思ってるよりずっと、色々」  彼女は一瞬、口をきゅっと引き締め、そのまま背を向けて行ってしまった。  それ以来、些細な事でギクシャクするようになり、先月別れることになった。  結局、何で進路を変えることになったのかも、言えずじまいだった。心の準備だなんて言って、どうにか格好がつく形で彼女に伝えようとしている間に、気持ちがすれ違って伝えられなくなってしまった。うだうだと踏み止まっていた僕のせいだ。    僕は下校用のワープゲートに向かった。ゲートの先には散らかった自宅が待っている。彼女からの中途半端なメッセージに対する返事が思いつかない僕の頭みたいに、整理できない部屋に俺は帰っていく。  片付ける予定は、今のところ無い。  僕は家の番号を入力しかけ……少しだけ迷った後、別の番号を入れ直した。          *  *  *  *  *  「お先失礼しまーす」  怪しくなってきた空模様を窓の外に見ながら、私は更衣室を出た。  「お疲れ様。降りそうだから気を付けてね」  先輩の声を背に、私は店の扉を開けた。気を付けてね、というのはあくまで、店を出てワープゲートの前に辿り着くまでの徒歩2分ほどの間のことだ。  私がバイトしているこの喫茶店は狭い敷地をなんとかレイアウトして作られているので、店内にワープゲートが設置できない。少し離れた場所にある共用のワープゲートまで、少しだけ歩く必要がある。    私は店の前の大通りで信号を待つ。ワープゲートによる瞬間移動が当たり前になったこの時代になっても、街から道路が消えることはない。依然として長距離移動を好む人たちは、自動運転車に乗ってこの道路を行き来する。ワープゲートの設置費用よりも自動運転車の方がずっと安いのだ。  横断歩道が好きなんだ、と言った彼のことを思いだした。  子どもの頃、横断歩道の白いところだけを踏んで渡る遊びをよくしたんだ。子どもの頃は歩幅が小さかったから、結構難しくてさ。小学校からの帰り道、わざわざワープゲートを使わずに歩いて帰って、途中の横断歩道で遊んでたんだ。一瞬で家に着いちゃったら、その楽しみが無くなっちゃうからね。  そう言って彼は、当時よりずっと大きくなったであろう歩幅で横断歩道の白線を飛び越えていった。そのくせ彼は、大学から家までが遠い、ケチな大家がいつまでたってもワープゲートを付けてくれないなどとこぼしていて、私は笑った。そういう時間が好きだった。    放っておくとすぐ部屋を散らかす癖があって、何度も部屋に押しかけては半ば強引に部屋の掃除をした。押し入れに開封すらしていない電子プラモデルの箱が山積みになっているのを見つけ、呆れた。整理できないなら捨てるぞと脅すと彼は子犬みたいな目で「やめてくれ、後生だ」と訴え、その必死さに私はまた噴き出してしまうのだった。  好きだったそういう時間は、突然のすれ違いによって終わってしまった。  急に連絡が取れなくなった彼。進路を変えたと噂になっていた彼。やっと会えたと思ったら、眼を合わせようともしてくれない彼。  何を思っているのか、全然分からない。聞いても答えてくれない。段々じれったくなってムキになって、結局彼に強く当たってしまった。  何かもっとできることがあったんじゃないか。彼が話してくれるまで、辛抱強く待つべきだったんじゃないか。今更考えても仕方がないのに、止まらない。何か小さなきっかけを期待して、たまにメッセージを送ったりしているが、彼からの返信は殆ど無い。  青になった横断歩道を横切り、私はワープゲートの前に着いた。屋外に設置されているワープゲートには必ず、簡易的な屋根が設けられている。タッチパネルに搭載されている空間制御装置が水に濡れると誤作動を起こすおそれがあるため、雨を防ぐ必要があるからだ。  屋根の下に辿り着いた直後、パシ、パシと控えめな音を立てて雨が屋根を打ち始めた。  彼は濡れていないだろうか、と私は思った。彼が連絡をくれれば、彼がどこにいるのか分かれば、傘を届けにいけるのに。もちろん彼から連絡が来ることは無いし、居場所も……彼の心すらどこにいるのか分からなくなって、それで別れてしまったのだから。  私は小さく溜息をついて、タッチパネルに番号を入れた。ここから家までを一瞬で繋いでくれるワープゲートも、彼との距離をもう一度縮めてくれることはない。      *  *  *  *  *  ゲートをくぐると、風呂場の壁が目の前に現れた。  足元にはシャンプーとリンスのボトル、それから掃除用のブラシが転がっている。僕はそれらを踏まないように風呂場を出ながら、溜息をついた。    ここに帰ってくる前、喫茶店に寄った。……正確には店の前まで行って、入らずに帰って来た。  店の窓からは、彼女の姿は見えなかった。さっき来たメッセ―ジに今日はお店にいるからみたいなことが書かれていたので、きっとバックヤードにいるのだろう。接客をしていたら少しだけ寄って行こうかと思っていたが、彼女の姿が見えない以上入る気にはなれなかった。  ……いや、きっと彼女がいるのを確認できていても入らなかっただろう。どんな顔をして、どんな風に声をかければいいのか分からない状態では、決心など着くはずもない。  俺はタブレットを取り出して鞄をベッドに放り投げ、机に向かった。さっき作りかけだった課題がもう少しで終わりそうなので済ませておこうと思ったのだが、頭が働かない。ワープゲートのおかげで家まで一瞬で着くようになったというのに、何故だかひどく疲れた。  ぼんやりと画面を見つめたまま30分ほど経ち、俺はタブレットをしまった。先にシャワーを浴びてしまおう。そんなことをしたら即、寝てしまう事は分かっていたが、なんだか今は色々と考えたくない気分だった。  ふと窓の外を見ると、今にも降り出しそうな空模様だった。雨に濡れて彼女に出会ったあの時と、雨に濡れることなく家で1人佇んでいる今と。2つを意味もなく並べてしまいそうになって、俺は軽く頭を振り、Tシャツを脱いだ。      *  *  *  *  *  ワープゲートを通る瞬間が、私はあまり馴染めない。  大抵、まず右足をワープゲートに入れる。そこで自分の足が虚空に消えていくのを目にしつつ、胴体、それから頭とゲートをくぐっていく。身体が消えていくのに痛みも違和感もないのが、逆に奇妙な感じだ。  ゲートをくぐる瞬間、元いた場所の景色が波紋のように揺らぎ、それと重なるようにして目的地が目の前に現れる。私はこの感覚がどうしても苦手で、つい目をつぶってしまう。  バイト先のワープゲートをくぐるときも、私は顔を下げ、つま先がゲートに入ったところで目をつぶった。頭がゲートをくぐったなと思ったタイミングで目を開ければ問題はない。  私は頭をゲートに入れ、頭の中で数秒間数えた後、顔を上げた……。  と。  突然、顔に大量の水しぶきがかかり、私は思わず目を開けた。  そこは、家の前ではなかった。目に入った水滴のせいで前がよく見えない。いや、水滴のせいだけではなく、そこはどうやら湯気が立ち込めていて、それが視界を更に阻んでいるようだった。顔にかかったのが水ではなくお湯であったということに遅れて気が付いた。  そこに、人が立っていた。  華奢な割に、意外と筋肉質な身体。どこか見覚えのある後頭部。  そして、脚には……。  「うわっ!?」  叫び声とともに、目の前の人物が振り向いた……彼だった。  「な、何でここにいるんだよ!?」  彼は慌ててバスタオルで腰元を隠した。  「なんでって……こっちの台詞だよ! 私、バイト先から家に帰るところだったのに……なんでここのお風呂場と繋がってるの?」  彼ははっとした顔で、浴室の壁を見た。そこにはワープゲートの操作パネルがあった。  「……とりあえず、1回出てもらえるかな。タオル、その辺にあるの使っていいから」  そこで私は、自分がシャワーのお湯をもろに被っていたことにようやく気が付いた。  「信じられない」  私は頭を拭きながら、部屋で髪を乾かしている彼のところへずかずかと歩み寄った。  「なんでお風呂場にワープゲートがあるの? 浸水厳禁なんだから、あんなところにパネル付けたら故障するに決まってるでしょ。パネルの表示、バグってたよ。おまけに電源入れっぱなしで。パネルに私のバイト先の座標が残ってたせいで、バイト先のワープゲートと干渉して誤作動起こしてここに繋がっちゃったとか、本当に呆れた」  私は憤りながら、自分の頭をタオルでがしがし擦る。  「工事会社が間違えて取り付けたんだよ。別の場所に付け直してくれって言ったら金かかるって言うし」  彼がぶつぶつと弁明する。私は溜息をついた。こんな乱雑な部屋で、ワープゲートを置けるような「別の場所」などあるはずもない。  拗ねたようにそっぽを向く彼を見ながら、私の目は自然とさっき見た彼の脚へと向かっていった。  「……その傷」  彼は半ズボンを履いていた。その左足首には、太ももから伸びた長い手術痕が顔を覗かせていた。  「連絡取れなかった期間と、関係あるの?」  彼は少しの間黙っていたが、やがて観念したように小さく溜息をついた。    そして彼は話し始めた。  ある日授業に遅刻しそうになりフライング気味に信号を渡ったせいで、曲がってきた自動運転車のセーフティセンサーが反応できず、衝突してしまったこと。  幸い命に別状はなく治療も一週間程度で済んだものの、左脚に若干の痺れと動かしにくさが残ってしまったこと。  通院しつつ自然治癒を目指していくしかないこと。ある程度回復するまでは、激しい運動は控えるよう言われていること。  その間、運動実習を受けられないため、体育の先生という目標を諦めざるを得なくなってしまったこと……。  「言ったら心配かけると思ったんだ」  彼はきまり悪そうに言った。  「衝突した時スマホが割れちゃったから、入院中連絡が取れなかったんだ。退院した後も、左脚が今までみたいには動かせないって言われて……どうやって話したら良いか、分からなくて。気持ちの整理がつかないうちに詰め寄られたもんだから、うまく言えなくて……言っても仕方ないと思ったし」  「仕方ないことないでしょっ!」  たまらず叫んだ私に、彼はびくっと身を縮こまらせた。  「言ってくれたらよかったじゃん! どうしようもなくなって不安だって……そしたら、もしどうにもできなかったとしても、不安を半分こすることくらいはできたかもしれないじゃんっ」  私は濡れたバスタオルを彼に投げつけ、その顔をきっと睨んだ。  「気持ちの整理ってなによ。1人じゃ部屋も片付けられないくせに。放っておいたら散らかるばっかりなんだから、そうなる前に言いなさいよ」  溢れて止まらない言葉を彼に向かって全部ぶちまけた。言い終えると、一気に力が抜けた。  私はその場に座り込み、深呼吸した。  「……それで、新しい進路、どうするの?」  彼は無言で鞄からタブレットを取り出し、私に見せた。  そこには、画面内で走ったり跳んだりボールを投げたりしている、ダイナミックな人型の3Dモデルが描かれていた。  「体育の授業で使う、シミュレーションモデル」彼が説明した。  「グラフィック実習担当の教授に相談したら、スポーツ指導用の教材作成の道に進んだらどうかって。……それなら今まで勉強したことも無駄にならないし、結構前向きに考え始めてる。定期的に課題見てもらいながら、進路相談にも乗ってもらってるよ」  私は彼の描いた3Dモデルをじっと眺めた。  「……なんだよ。ちゃんと新しい道、見つけられてるんじゃん」  ふいに画面が歪んだ。目を擦ると、タブレットに水滴が落ちた。  「片付け、手伝ってやろうと思ったのにっ」  気が付くと、私は泣いていた。彼は私の投げたバスタオルを私に被せた。  「泣くことないだろ」  「泣いてないしっ。シャワーで濡れただけだし」  泣いている私の、とっくに乾いた髪の毛を、彼はバスタオル越しにぽんぽんと叩いた。バスタオルのせいで彼の顔は見えなかった。  見えなかったけど多分、笑っていた。子犬みたいな目で。  雨も止んだ頃、彼が玄関まで見送ってくれた。ワープゲートを使わなくていいのかと言われたので、どうせ壊れてるから遠慮しとくと答えた。ケチらずに修理してもらいなよと言ったら、苦い顔をしていた。  「今度はちゃんとお店、寄ってよね」  彼はちょっと照れたような顔をしてから、小さく頷いた。  彼のお風呂場に、ワープゲートができた。  工事会社のミスだそうだ。  こんなに笑えるミスも、中々無い。  横断歩道の白線を踏んで帰ろうと、私は思った。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加