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「遅かったな、この俺を待たせるとは、物の分際でいい度胸だ」
よかった、私を物扱いしているということは、まだ信長様は愛を知らない証拠だ。
って、安心するところじゃない!
私は信長様に愛を教えなきゃいけないんだから。
「ちょっと色々ありまして。信長様は何故此処へ?」
「何故だと?俺の物に会いに来るのに理由など必要なかろう」
「っ……!」
物扱いされてるのに、私に会いに来てくれたことに鼓動だ高鳴る。
「それに、死が怖くないのかという貴様の問に、俺はまだ答えていなかったからな」
死が怖くないのか、それは、この前の信玄さんとの戦で、私が信長様に聞いたことだ。
人の命がかかっている戦で、信長様は楽しそうに笑っていた。
自分の命だって失うかもしれないのに……。
「俺は死など恐れてはおらん。俺は天下を取る男だ!そもそも死ぬわけがないからな」
口角を上げ、笑みを浮かべながら言う信長様は、死ぬなんて本気で考えていない。
その自信と周囲を驚かす行動力、信長様は、本当に天下を取ってしまいそうだと私も思えてしまう。
「そうですね、信長様ならたとえ殺されても死ななそうですもんね!」
私がクスッと笑みを浮かべた時、信長様は私の腕を掴むと自分の胸へと引き寄せ、そのまま腕の中へと閉じ込めた。
「あの時、何故信玄を庇った…」
信長様はさっきまでとは違い、悲しそうな声音で私に尋ねてきた。
あの戦で、信玄さんと信長様の一騎討ちになった時、私は信長様の足を引っ張ってしまうのが嫌で馬から飛び降りた。
〈っ……信長様!!私はここで目を逸らさず見ていますから!〉
〈この阿呆めが……〉
〈かっかっかっ!!面白い女だ、信長の首を取った暁には、女、貴様を俺が可愛がってやろう〉
その瞬間、突然信玄さんが落馬したと思うと地面は血で染まり、ゆっくりと信長様へと視線を向けると、手には赤く染まった刀が握られていた。
信長様が信玄さんを斬ったのだと理解したとき、すでに信長様は信玄さんの前に立ち刀を振り上げていた。
気がついたときには私は信長様の前に立ち、信玄さんを庇っていた。
信長様が信玄さんの首を落とそうとしているのを、私は黙ってみていることができなかった。
〈何故お前はそいつを庇う〉
〈敵であろうと味方であろうと、私は人が死ぬのは見たくありません!!〉
私は真っ直ぐに信長様の瞳を見詰め、震える声で言うと、刀が降り下ろされ斬られると思った時、信長様はその刀を鞘へと収め、私に背を向け、好きにしろとだけいうと馬に乗り、兵達の元へと行ってしまった。
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