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第2章 - 10 years later - 大魔導の庭
十年の月日が経ち、娘に魔法の発現を認めたクロード。
魔法研究の第一人者の叔母を訪ねる。
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色とりどりの花が咲く庭の中心で、大人の男の背丈ほどの噴水が初夏の陽射しを散らしている。貴婦人の住まう館によくあるマルリルのアーチをくぐると、その奥に小高く造られたあずま屋で読書に勤しむ人物がいた。金糸の刺繍で縁取られた薄布を羽織るその人は大魔導プルデンス、将軍直下で魔法使いを率いる司令塔である。
庭園の手前で、案内してくれた執事に帯びていた剣を預けると、クロードはあずま屋に登る階段下で跪いた。
「ご機嫌麗しゅう、大魔導閣下」
プルデンスは本を閉じてクロードに向き直った。ゆるくまとめ上げた金髪が逆光に透ける。プルデンスは細い指先をわずかに振って執事を下がらせた。噴水の音が沈黙を埋める。
クロードは勧められるままにあずま屋に上がり、対面に腰を下ろした。
「お前がこうしてやってくる時は大概悪い知らせだ、クロード」
ため息に呆れと諦めが表れる。「可愛い甥よ、今日はどんなお願いだ?」
プルデンスは父の、母違いの妹だ。若い頃から魔法の研究に明け暮れ、独り身を貫いている。半島統一の際には魔法使いを指揮して父の背後を守った。彼女がレアの素質を理解し引き出さなければ、チチェク制圧は成らなかっただろう。
レアが消えた後、クロードが真っ先に相談したのはこの叔母だった。父や自分とは違い、軍の中枢にありながら国や貴族社会から一歩引いたところで物事を見ている。チチェクから降った魔法使いも、彼女にだけは忠誠を誓う。
クロードは娘が突然炎を出したことを伝えた。
「ほう……」
プルデンスの片眉が上がる。
魔法の力自体は、主に親からの遺伝で、素質があれば成長とともに発露するもので特別珍しくはない。ただ、魔法には精神の力が作用する。その関係上、両親が魔法使いであっても十二、三歳頃が普通だ。クロードも承知で、だからこそ、ここへ相談にきた。
「まだ七つだったな? お前の娘は手足に鱗でも生えていたかな?」
プルデンスは扇で口元を隠した。この仕草をする時、叔母は面白がっているのをクロードは知っている。
「笑い事ではありませんよ。またいつ火を出すかと思うと、おいそれと外に出すわけにもいかず」
言葉を聞いて喋れても文字を学ばなければ読み書きができないように、炎を引き出し、操るには訓練がいる。
シーファは自分の意思なく炎を出し、それを収める術を持たなかった。突然出した炎はごく小さなもので、水をかけて消し、事なきを得た。世話係に水を備えさせているが、いつまでただの水で消せる規模でいるかわからない。
クロードには確信があった。娘に発現した力は、そのうちきっと強くなる。おそらく、火竜姫に並ぶほどに。
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