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あと半日かからずにドニに着くだろう、というあたりで私たちは馬を止め、休憩を取った。街へ入ってからの段取りを示し合わせるためでもある。ラウルが、あらかじめカカとも相談していたのだろう、首尾を説明する。
「ドニは街道沿いでは国境前最後の街です。関所を越える前、あるいは越えてから最初に旅人が立ち寄るので、にぎやかで大きい」
各々を見渡して、続ける。
「だが、さすがにこの四人連れは珍しい取り合わせで目立ちます。商隊にも見えないし、物見の家族というにも無理がある。そこで、私、賢者様、ウゴとレア殿の三手に分かれましょう」
カカのような大男は何をしても人目につくので、単体でこれからの道のりに必要な食料や道具を買い揃える。馬と馬車、山には持っていけない積荷を売るのはラウルが担当する。私はウゴの監視のもと、自分の体に合わせた着替えと外套を見繕っておくように言われた。
「レア殿には念のため、別の名を考えなければいけませんな」
ラウルは顎を掻きながら私に聞く。「ご希望はあるかな?」
クロードから逃げた時、中央には戻らないと決めた時、新しい名前は決めていた。
「マルリル」
私の答えに、ラウルは満足そうにうなずく。
「適度にありふれていてよろしい。マルリル、そう呼ばせていただく」
ほかの二人も心得た様子で首を振った。
「では、ここからは互いに距離を取って進みましょう。馬車は私が、マルリルはウゴの馬に。街中で顔を合わせても知らぬふりでお願いします。ドニには二泊した後の朝に出立、街道から脇道にそれるまではそれぞれ行動。昼頃に休憩がてら落ち合う」
ラウルの指揮どおり、単騎で動きやすいカカをまずは見送る。私はウゴに引き上げられて馬に跨った。後ろで手綱を執るウゴは、ここまでの道のりでは口数が少なく控えめな印象だが、ふたりきりで過ごすのは大丈夫なのか。ウゴが無言で馬を歩かせるものだから、私は急な動きに体勢を崩す。
何にせよ久しぶりの宿泊は素直に嬉しかった。男たちにとっても山越えに備えた休息を含めての二泊なのだろう。温かい食事。柔らかい寝床。思えば、彼らのほうが余程張り詰めているのかもしれない。私を手に入れても、彼らはまだ目的を果たせていないのだから。ボブロフに無事に着くまでは──。
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