第3章 - After the day - ドニの街

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第3章 - After the day - ドニの街

謎の男に捕まったレアは名をマルリルに変え、大陸を目指す。 少しずつ蘇る記憶、深まる謎、カカの目的は。 -----  ドニに着いて、馬を売って、その金で冬の支度を買う。厚手の外套や襟巻、手袋。山は寒いからと、ラウルに繰り返し念を押されていた。今の時期に一軒の店でまとめて買うと、山越えを疑われる。一品ずつ、同じ店に行くなら時間を空けて。まだるっこしい買い物に時間を取られ、あっという間に日が暮れる。  その間、ウゴはほとんど私には話しかけてこなかった。私は黙ってウゴのあとについて歩く。買う時も、選べ、というように顎をしゃくるだけで、私が手にしたものをろくに見もせずに支払いに持っていく。店の主人との値段交渉は人並みにしているので、口下手とか引っ込み思案とかいうわけではなさそうだ。  ドニは多分、私は初めてではない、と思う。あてどない旅で何度か立ち寄ったことがある気がするが、自信はなかった。大きな街道沿いにある大きな街はどこも似ているから、区別がついていないだけかもしれない。  こういう街では商売人が一番偉く、それ以外の人種は様々だ。見るからにならず者もいれば、傍目にはわからない〝訳あり〟もいる。  誰もがどこかへ向かう途中で、あるいは折り返し帰る先がある人で、一律に予定をこなす忙しさに追われている。面倒ごとは御免だから、つまり他人に無関心だから、短い期間滞在するには都合がいいのだ。  西の空は赤く染まり、道行く人が宿に吸い込まれていく。両手一杯になった荷物を私に預けて、ウゴは宿探しに行った。  一人で待たせても私が逃げないとわかっているのだろう。見くびられているのではなく、私が自分について知りたい気持ちを見透かされているのだ。  詳しいことは話せないとしているのも、目的の場所まで私についてこさせるための手だ。  きっと、将軍や大魔導とは違う──おそらく彼ら以上に、私の使い道を知っている。私の存在の根本に関わる部分も、もしかしたら。そのくらいでなければ、火竜姫の強奪に何人もの命を懸けた理由が見当たらない。  しばらくしてウゴが戻り、私たちは無言で今日の宿へ向かった。訳ありの旅にそぐわない、大きく構えた建物だった。二階の一室に通される。中は部屋の中央で間仕切りされていた。 「一人部屋を二つ取れる宿がなかった。我慢してくれ」  ウゴが自分から喋ったので、心の準備がなかった私は驚き、そのあと吹き出してしまった。  二部屋取れる宿を探し回っていたのか。時間的にもう空いている宿がなくて、二人部屋で間が仕切れる所をやっと押さえた、と。  初めてまともに口をきいたと思ったら、襲撃犯の一味らしからぬ内容で、私は脱力した。 「奴隷だったから、雑魚寝は慣れてる」  こみあげる笑いを堪えていると、 「それは子供の頃だろう」  と言い捨てて、ウゴは衝立の陰に消えた。
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