第4章 - 10 years later - 後始末

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第4章 - 10 years later - 後始末

夏至祭での一件で苦しい立場に置かれたクロード。 本物が王都に現れたと聞いて、火竜領のイヴェットは何を思うのか。 -----  夏至祭から丸二日、クロードは王城の一室に留め置かれた。シーファも帰宅は許されず、報せを聞いて駆けつけた妻に付き添われて別室に隔離されている。城仕えの侍従が食事を運んでくる以外に部屋の扉は開けられず、鍵さえかけられていないものの、外には近衛兵が立った。  一年のうちで最も大きく、重要な祭。その象徴を娘が災いに変えた。それも城下で。さらに、魔法。瞬時に広場を席捲するほどの火力を十にも満たない子供が、とくれば、新たな火竜姫擁立に傾いていた中央が見逃すはずもなく、クロードは沙汰を待つよりほかになかった。    シーファの様子は、出入りする侍従から聞けた。祭で炎を操ったことは覚えておらず、王城の豪奢な部屋にはしゃいで、クロードの屋敷に帰れないことは気にしていないようだ。本や遊び道具もあり、母親も一緒だから、祭から続く非日常を楽しんでいるのだろう。王城警護の魔導士が見張っているとの情報に、門外漢の父は安堵する。ただ。  このままシーファが新火竜姫として担がれる可能性は高い。言い出したのは血族のプルデンスだ。軍議での提言は最初からそのつもりだったのかもしれないが、クロードは同じ称号を持つ者が増えること自体を承服しかねる。  とはいえ、素質を衆目に晒しておいて、幼い身内は候補から除外するなど、許されはしない。任命されたらされたで、別の娘を推していた者達からの嫉妬に炙られる。両親の血筋にない能力は下衆の勘繰りであらぬ噂の餌食になるだろう。  間近にいながら守るべき市井に火を放つのを止められなかった、クロード自身の失態はどう問われるか。親として、騎士として。上官であるプルデンスやラヴァル将軍への責めは?  いや、それは些末な問題だ。彼らは自分自身で如何様にも切り抜けられる。面会が叶わないところをみると、今頃彼らは上層部を巻き込んで建前を整えているに違いない。生贄になるのは、やはりシーファなのか。  クロードが最も恐れているのは、夏至祭に現れた本物の火竜姫レア──マルリルの存在だ。  あの場にいた何人が、現れた女に気づいたか。フードから覗かせた顔を、その技を見たか。単なる通りすがりでないことは、庶民の目にも明らかだ。  中央では故人。一般には北部国境で身重。王都に火竜の炎が蘇ったとなれば、すべてがひっくり返る。繕ってきた十年の、すべてが。プルデンスにだけ打ち明けた秘密は、クロードの手の届かない場所で蓋を開けようとしていた。
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