第4章 - 10 years later - 後始末

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 〝元〟火竜姫レアを探せ──中央軍議会で改めて下された命により、クロードとシーファの措置は王太子預かりとなった。  午後には妻子と自邸に戻れたクロードだったが、与えられた時間は短い。そして、わかっていることは少ない。  十年、何の音沙汰もなく、入れ替わりを知る者は死を、知らぬ者は国境での息災を信じていた。なぜ今さら……と、思わずにいられない自分をクロードは呪う。  すべて自分の不甲斐なさが引き起こした。十年前のあの事件で自分がちゃんと死んでいれば。いや、怪我など負わずに守り抜いていれば。  ……そうじゃない。  国境へなど行かせない力が、あるいは勇気があの時の俺にあれば。細く小さな手を取っていれば、俺が──。 「お父様!」  シーファの声が現実に引き戻す。クロードは寝室で、揺り椅子にもたれていた。  笑顔で部屋に駆け込んできた娘と、それを穏やかに嗜める妻と。「特別な」少女を、あの時守れなかったから得られた、今、守るべきもの。  戻れない過去を悔やんでも仕方ない。今は、やらなければならないことをするだけだ。  構ってほしくてまとわりついてくるシーファを、妻に任せて部屋を出る。明日は朝からプルデンスがお出ましだ。しでかした件についての説教は当然聞かねばならないし、王太子ほか中央の面々にどこまで話すかも口裏を合わせる必要がある。その前に絵描きを呼んで人相書きを作り、騎士団へ指示を出しておきたい。  連れていた大男が何者かは気になるところだが、目印には丁度いい。夏至過ぎの気候で顔を隠すような格好も人の印象に残りやすい。  王都にはかつて半島平定の立役者として凱旋している。月日を経て顔つきは多少の変わっても、庶民の中には間近で見た火竜姫を覚えている者がいるだろう。足取りを追うのはそう難しくはないはずだ。  ある程度情報を集めたら、レアには直接登城を交渉しにいく。十年の沈黙を破って現れた割に、すぐに姿をくらましたあたり、何か目的があって来たに違いない。大人しく王太子の前まで同行するとは思えない、だからこそ、クロード自身が出向くのである。抵抗を受けた場合の被害や、後始末のためにも。  「出かける」の一言にメイド長ロゼが差し出したマントを羽織って、クロードは自邸を後にした。
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