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「犬も、同胞も灰になった」
掠れた声が降ってきて、私は固まった。カカは今どんな顔をしているのだろう。「お前が殺したんだ」頭の中で誰かになじられる。燃え盛る対岸を振り返りもしなかった。炎の向こうで起きていることに目を背けていた。
「長年解放を求めてきた俺たちにボブロフが提示した条件が、火竜姫拉致だった」
最初は断った。しばらくすると歯が送られてきた。それでもカカは反対したが、計画は実行された。止めるカカを置いて、仲間たちは犬を引き連れて出ていった。
「持ちかけられた取引を拒否する権利もない。成功したってどうせ始末されて終わりだ。俺たちは本当は、帝国と戦う覚悟を決めるべきだった」
だが、仲間たちは炎に飲まれて消えた。だから私に代わりを務めろと、カカは言いたいらしい。殺したいほど私を憎んでいてもおかしくはないのに。
「急に襲われたんだ」
私の声は震えた。「矢が、雨のように降ってきて、犬が」
仕方なかった。護衛は散り、離れずにいてくれたのはクロードだけだ。川へ追い込まれて、何も考える余裕はなかった。
「敵も味方もわからなくなって、そのうちクロードが斬られて」
次々と込み上げてくるのに、途切れながらでしか吐き出せない。子供の言い訳みたいで情けなくなり、クロードの剣にしがみつく。
「正当防衛だと言いたいのか」
「私を生け捕るなら、私だけ誘い出すとか、金網で捕らえるとか、いくらでも方法はあったはずだ! 武器に毒まで塗って──」
「毒?」
カカの声が裏返った。
「毒だ! 全部お前が、お前たちが仕組んだ! 何が何でも殺す気で待ち伏せていたんだろ!」
いつから流れていたのかわからない涙を拭って、私はカカを睨み返した。
「なんだと!?」
痛いくらいの握力で両肩を引き寄せられる。殴られる! 反射的に目を瞑った。
一呼吸おいて、恐る恐る目を開ける。カカは真顔だった。
「毒って何のことだ?」
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