第5章 - After the day - 目覚め

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第5章 - After the day - 目覚め

ボブロフ大陸入りを果たし、帝国の支部へと向かうマルリルたち。 カカに迫られた選択は思わぬ形で二人をつなぐ。 -----  馬車の揺れで私は目を覚ました。幌の中は明るい。向かい側には、荷台のへりに体を預けてあぐらを掻いているカカ。眠っているようだ。ウゴはいない。馬を御しているラウルについているのだろう。手首に巻かれた鎖が揺れのたびに小さく鳴っている。  ボブロフ大陸を席巻した帝国は領土を東西南北に分け、支部を置いた。今向かっているのは西の支部・ザカット。 「支部といっても砦に騎士団が詰めているだけですがね」  私の手を束ねる時、ラウルが言っていた。「それでも帝国の直轄で、指揮は皇帝陛下の御子息の一人ですから」  形は必要なのでと、当て布の上から丁寧に鎖を巻き付けた。  手前の村で馬車を用立てて未明に出発、朝一番で砦の門を叩く。すでに夜は明けている。そろそろ到着する頃合いだ。  結局、ボブロフに入ってからカカと二人で話す機会はなかった。馬車で出発した時はウゴが荷台にいて、カカは言葉を発するどころか目配せすらしてこなかった。  ウゴがいない今、これが最後かもしれない。でも、ゆっくり話している時間もない。その前に私自身、まだ心を決めかねていた。帝国相手に母親の救出。全く想像がつかない。協力者に当てでもあるのか……? 考えているとカカと視線がぶつかった。 「決めたか?」そう問われた気がして、私は首を振った。カカは座ったまま私の隣まで移動してきた。 「この先が、ひとつの山だ」  捕らえた火竜姫をどう扱うのか。詳しくはカカも知らないという。処遇によっては帝国本部まで辿り着けない場合がある。かといってここで事を起こすと、カカの母に危険が及ぶ。まだしばらくは従順にしておかなければならない。二人で協力するなら慎重に計画を練りたいが時間はなく、私はまだ迷っている。 「だから、言い方を変える」  カカは一本立てた人差し指を私の鼻に押しつけた。 「母のついでにお前も助けてやる。だから、余計なことはするな」  指先から伝わってくる熱と脈動。触れる皮膚の向こうに、血と肉以外の力が流れているのを感じる。  どくん、呼応するように私の心臓が脈打つ。鱗が逆立ち、産毛の先まで神経が走ったような感覚が閃いた。 「助けて……」  口をついて出た言葉に私は自分で驚いていた。  助かりたい。助けてほしい。ああ、本当はずっとそう望んでいたんだ。いよいよこの身がどうなるかという今この時も。  カカに、私の反応はどう映ったのか。私を拉致した張本人は指を引っ込めながら二、三度瞬きをして、 「任せろ」  私の手首の鎖を指で弾いて少し笑った、気がした。
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