とある狐守の滑稽な日常

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「万年引きこもりのシキさんが出かけるって、珍しいですね」 「不定期に開かれる、いわゆるキツネの首脳会談的なやつッス。大事な御用なんで、あさってまで戻ってこられないみたいッスよ」 「ああ、なるほど。ユキは連れていかなかったんですか?」  シキさんは、住居にしている旅館とほぼ一体化しているレベルの出無精なので、ごくごくたまーーーに、どこかへ出かけるときは、必ずといっていいほどユキと一緒だった覚えがある。数日に渡っての県外出張なら尚更、ユキはうっきうきでついていくと思ったのだが。 「今回も一応そのつもりだったらしいんスけど……どうやら、直前でケンカしたっぽいんスよね」 「ケンカ、ですか」  ユキはともかく、俺はシキさんとはほとんど面識がない。この店の店長であり、天狐(てんこ)でもあるあの人に、新しく入ったバイトとして、また新米の狐守として軽く挨拶をした程度だ。無言かつ無表情で話を聞いていたシキさんが、俺の高校名を耳にした途端、席を立って店を出て行ったときは死ぬほどびびったものだが、基本的には無害なひとだと思っている。  なので、あの親子の間に、ケンカという文字を当てはめても、あまりしっくりこない。ユキはあのとおり、反抗期とはとことん無縁だし、シキさんが愛娘を大事にしていることは、カフェの従業員みんなが知っていることだ。 「まあ、今回は口喧嘩の延長くらいのレベルだったんスけどね。けが人も出なかったし。……十五年前の大戦争に比べたら、なんだってかわいいもんッス」  ひぃ、となにやら思い出したのか、ノルさんは掃除の手をいったん止めて、自分自身をギュッと抱きしめた。大戦争なる物騒な単語と、震えるノルさんのことは気になったが、俺はもうひとつの疑問の解消を優先させることにした。
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