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「キツネの上のほうで、なにかあったんですか?」
たとえ不本意でも、一応は狐守という立場である以上、キツネ界隈が騒がしいとなれば、それなりに気にはなる。たとえ不本意でも、ある程度の情報は得ておくべきだ。たとえ、どんなに不本意だとしても。
「オレっちみたいな、いち人狐には、上のひとたちの考えはよくわからないんスけど。ただ、最近ちょっと狐憑の話をよく聞くなぁとは思うッス」
「狐憑……」
正直、あまり耳にしたくない話題だ。狐憑が関わるとなると、必然的に狐守である俺が骨を折らざるを得なくなる。面倒事は、極力ご免被りたい。
「ま、狐憑が出たとしても、うちにはスーくんがいるんスから大丈夫ッスよ! 期待してるッス、おこもりさん!」
「なんのフラグですか。素人同然の俺にプレッシャーをかけるのは、やめてあげてください」
――お狐守さん。
それは、狐守という人間に対する、キツネたちからの愛称であり、最大の賛辞でもある。名誉なことではあるはずだが、だからこそ、俺はそれを受け取るつもりはない。今までも、これからも。
「スーちゃん! ノルさんも! はやくおててあらってきてー!」
見た目は小学生のユキに、子どもを窘めるように呼びかけられるのが、ちぐはぐでおかしい。俺は、いつの間にか俯けていた顔と一緒に、唇の端をこっそり上げた。
ほんの数日間とはいえ、父親がそばにいないのは心細いだろうと思っていたが、俺の考えすぎなのかもしれない。少なくとも、ゲンさんお手製のまかないを、カウンターから大きなテーブルへと甲斐甲斐しく運び続けるユキからは、寂しそうな様子は微塵も感じられなかった。
「今日はリクエストにお応えして、ママカリにしてみました」
「マジッスか! やったーーー!! オレっちの大好物!!」
ゲンさんの言葉に、ユキよりよっぽど小学生じみた反応を返した大学生は、掃除用具の片づけを放棄してすっ飛んで行ってしまう。やれやれと溜息をひとつ吐いて、それを回収すると、俺もゆっくり後を追った。
従業員が全員キツネの、不思議な古民家カフェ狐し庵は、今日も騒がしい。
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