とある狐守の滑稽な日常

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 担任への挨拶をトリガーとして、本日も滞りなく放課後が始まった。あふれる解放感。わき立つ喧噪。それらに背中を押されるように、クラスメイトたちが立ちどころに廊下へと流れ出す。俺もひとり、はやる気持ちを抑えながら、何食わぬ顔でその中に混ざり込んだ。  大多数の生徒が正面玄関へと向かい、それ以外の生徒が数人単位の塊となって壁際に散在していく中。俺はといえばーー。    「おいおいおい、ふざけんな……! バイトに遅刻するだろうが……っ!」    帰宅を急ぐ生徒の波を逆流しながら、脇目も振らずに廊下を疾走するという超少数派な存在として、今まさに若干の注目を集めている。  不審げな視線が肌にちくちく刺さるのを感じながらも、俺は走ることをやめられない。いや、迷惑なのはわかってるよ、ごめんなさいね。けど、俺だって好きでこんなことしてるわけじゃないからな。  自慢じゃないが、俺は特別に足が速いわけでも、特別に容姿が優れているわけでもない。なので、今のように瞬間的に悪目立ちをしても、あっという間に存在を忘れ去られる。地味な人間だけが持つ特異な能力として、今後とも有効に活用していきたいところだ。  が、中には、そんな俺のことすら気にしてくださる、お優しくて時間に余裕のある方々もいらっしゃるわけで。 ――アイツ、ホラ。 ――アア、レイノ。 ――アレデショ、五クミノ。  いわゆる、カクテルパーティー効果ってやつだろうか。自分に関係のある言葉は、騒がしい場所でも自然と聞き取れてしまうという現象。望むと望まざるとにかかわらず。  明らかな嘲笑がハウリングのように弾みながら、廊下を抜けて1号館を離脱しようとする俺の後をしつこく追ってくる。    自分たちがどんなに幸運な境遇にいるのかも知らずに、好き勝手なこと言いやがって。  狐守の家系に生まれていたら、お前らだって俺と同じ目に遭っていたんだぞ――などと、懇切丁寧に説明してやる義理は、当然ながら、ない。      言いたい奴には言わせておけ、をモットーとしている俺はギアをひとつ上げて、耳障りなノイズを振り切るべく、走る。
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