とある狐守の滑稽な日常

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 1号館に隣接する3号館も通り抜け、正面に多目的会館、右手に駐車場が見える開けた場所へと辿り着く。俺の帰宅部かつインドアな部分が、ここに来て、とうとう露呈した。足を止めた勢いのまま両膝に両手を置き、全身を使ってしばしの酸素吸入タイムに突入する。  相手の事情を欠片も考えない幼稚な陰口にはもう慣れたと思っていたが、案外そんなことはなかったのかもしれない。うっかりイラッとして、ついつい全力ダッシュをしてしまったことは認めよう。  呼吸を整えながら、腕時計に視線を送る。バスの発車時刻まで、ほとんど余裕がない。あと五分で探し出し、学校を出なければ。そう算段を立てた俺は、最後にひとつ息を吐くと、気合いを入れて背筋を伸ばした。    「どこに行きやがった、あいつ……」    探し物は、いつも同じ。けれど、いつも同じところにいるとは限らない。ただ、だいたいの居場所だけなら何となくわかってしまう。勘の延長のような、不確かな感覚ではあるが。    ここは、中庭を中心として1号館や2号館などの教室棟だけで構成された四角い空間から、少し外れたところにあった。目の前にある多目的会館をはじめとして、第二体育館や部室棟、弓道場やサイエンス館といった、多種多様な施設への分岐点かつ通過点になっている。  それはつまり、好奇心旺盛なが興味を惹かれて思わずふらふら入り込んでしまいそうな場所が無数に存在する、ということだ。視界の中にあるだけでも、建物の数は余裕で片手の指を上回るうえに、駐車場では色とりどりの車があちらこちらで咲いている。  これ以上、走り回ったり、ましてや覗き込んだり、這いつくばったりしながら周囲を捜索するという選択肢は、当然ながら俺にはない。絶対にない。そもそも、しらみつぶしをするには圧倒的に時間が足りない。     ――なので、探し物のほうから出てきてもらうことにする。  念のため辺りを見回し、誰もいないことをしっかり確認する。もう既に変人として一部で名が知られているのは理解しているが、ただの変人から、やばい変人に認識のレベルを上げられても面倒くさい。  すぅっと息を吸い込み、だだっ広い空間に向かって俺なりの精一杯の声を張り上げようと胸を逸らし――いざ、 「きゅ……!」 「――筒井」
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