俺とお前だからできること

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「スーちゃん!」  玄関を飛び出してすぐ、黒のマジェスティが目の前に横付けする。フルフェイスのノルさんの後ろから、ユキが飛び降りてきた。着替える余裕もなかったのだろう、部屋着にしている浴衣姿のままだ。いつもは結んでいる長い髪も解かれ、緩くうねるように空中を泳いでいる――と思ったのも一瞬のこと。  あっという間に白いキツネの姿に変わると、キューちゃんとは逆の肩に飛び乗り、そのまま俺が担いでいたデイパックの中へするりと潜り込んだ。 「お願いします、ノルさん! あくまでも安全運転かつ限りなく全開で飛ばしてください!」 「スーくんは、ホント無茶ばっかり言うッス!」  今までユキがいた場所に、今度は自前のヘルメットをつけた俺が座る。ぶつぶつ文句を言いながらも、ノルさんは即座にバイクを滑らせた。 「というか、オレっちマジでなんにもわかんないスけど! アリサトさんって誰なんスか!?」 「ユキの母親です!」 「スーちゃんのおともだちだよ!」 「いや、だからわかんないッス! なんなんスか、その複雑な相関図!」  走行中の会話は、必然的に大声になる。閑静な住宅街を走っているうちは大人しかったノルさんも、大通りに出た途端、一気に爆発した。  考えてみれば俺たちの中で一人だけ事情を知らないのだから、無理もない。 「――ただ」  いつもスーパーボールのように弾むノルさんの声が、急に地を這う。  意外にも状況の把握が早く、意外にも大局を見るこのひとに、これ以上の説明は不要だ。 「ふたりの大事なひとだってことだけは、わかったッス」  ぐんと姿勢を低くしたノルさんが、バイクの速度を一気に上げる。  振り落とされないようしがみつく俺の耳には、もうエンジンが風を切る音しか入ってこなかった。
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