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「オレっちはアリサトさんのサポートに回るッス! こっちは任せてほしいッス! け、けけけけけ決して店長が怖くて逃げるとかじゃないッスからね! 絶対そんなんじゃないッスからね!!」
前半だけなら文句なしにかっこよかった台詞を落っことして、既に野狐の元へと駆けだしていた在里の後をノルさんが追いかける。元気に走るその姿は、さっきまでヘロヘロになっていたことなど微塵も感じさせない。なんだかんだで頼れるひとだ。野狐については、もう俺がいなくても問題ないだろう。――それよりも。
「あたしの結界は、キツネの中でも一二を争うと自負しているんですがねぇ。ピンポイントの攻撃には弱いとはいえ、一撃で粉砕するんですから、旦那には敵いやせんぜ」
お陰で自信がすっかりなくなりやした、と帽子を押さえて見上げながら、ゲンさんが俺の隣にやってくる。
釣られて俺も、シキさんをできるだけ視界に入れないような角度で、おそるおそる空を仰いだ。今まで一度も聞いたことがなかったが、そうか。爆発前に聞こえた、ガラスが砕けたような音。あのとき、結界が破壊されたのか。
完全に日常と繋がってしまった無防備な空間が、寒々しいほど頼りない。なんといっても今は、キツネの形をした爆弾が二つも剥き出しの状態なのだから。
「これ、一体どういう状況なんですか? なんで、シキさんが……」
予定では、シキさんが岡山に戻ってくるのは明日のはずだ。そして、まあ理由は大体察しがつくが、のっけからフルスロットルで怒っている。
「旦那が、姐さんから離れた野狐めがけて結界の外から炎を放ったんですが、お嬢が炎で庇って相殺しやした。なので、ちょっと困ってるようですね。もう一度、野狐を狙って攻撃したくとも、既に姐さんが近くに行ってしまっているので下手に手が出せない。近付いて確実に仕留めようにも、お嬢が行く手を遮るでしょう。ということで、しばしのシンキングタイムに入っていやす。――今のうちに、こちらも体勢を立て直しておきやしょうか」
「要は、問答無用で野狐絶対殺すマンのシキさんと、野狐と最期に話したいという在里の意志を尊重するユキによる、十五年前さながらの大戦争が勃発寸前ということですか?」
「懐かしくて震えやすね。そういうことです」
「……俺は、何をすればいいですか?」
「姐さんの言われた通り、お嬢の側にいてあげてくだせぇ」
そう言われても、足が地面に根を張ったように動かない。
ユキの近くに行くということは、必然的にシキさんと真正面から向き合うということになる。噴火した火山に、裸ひとつで乗り込むようなものだ。生半可な決意では、全身全霊で拒否する身体を説得できない。
「旦那に連絡をしたのは、あたしです」
躊躇する俺を見かねたのか、唐突にゲンさんが自白を始めた。
シキさん宛てに空狐からレインが届いた線を第一に考えていたが、第二のほうだったか。それほど驚かない俺を横目で確認して、ゲンさんが続ける。
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