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ゆっくりおりてくるおとうさんの、あたまのうえのほうから、にじいろのひかりが、とんぼのめみたいにキラキラかがやきながらこうえんをおおっていく。
ゲンさんの、けっかいだ。ゲンさんが、おとうさんがこわしたけっかいを、はりなおしている。
みんなが、たすけてくれている。ユキは、おとうさんからめをはなすことができないし、ここをうごくことはできないけど、それでもちゃんとかんじられる。
ふと、せなかがあったかくなった。
みなくてもわかる。やさしいけはい。
スーちゃんだ。スーちゃんが、となりにきてくれた。
「……ここにいるとあぶないよ、スーちゃん」
「だからだろ。そんな危ない所に、なんで一人でいようとするんだ、お前は」
おかれていたてがなくなったとおもったら、あたまをかるくこつんとたたかれた。それからまた、あったかいものがせなかにもどってくる。
あたまじゃなくて、はなのおくが、つんといたい。きょうはいっぱいはなをつかったからかなとおもったけど、きっとそうじゃない。めのおくも、ぶわっとあつくなって、なにかがあふれそうになる。
ちょっとはなれたところにおりてきたおとうさんのすがたが、すこしだけぐにゃっとしたから、あわててめをこすった。
おとうさんは、いつもむすっとしてるけど、そんなにおこったりしない。ぜんぜんしゃべらないけど、おっきなてで、あたまをなでてくれる。
でもいまは、とってもこわい。
「何のつもりだ、ユキ」
ひくい、こえ。おかあさんが、かみなりみたいね、ってたのしそうにわらってたっけ。
となりにいたスーちゃんが、びくっとふるえたのがみえて、ちょっとだけおかしかった。スーちゃんって、かみなりがにがてだったかな。
「それは、おとうさんでしょ。どうして、やこをいじめるの?」
おとうさんのまっくろなほのおが、おかあさんからはなれたやこをねらってとんでいったから、びっくりした。あわててユキもほのおをだしてまもったけど、それでおとうさん、もっとおこっちゃったのかな。
「――あれに、これ以上、関わらせない」
あれ。おとうさんは、おかあさんのことを、よくそうよぶ。おかあさんのなまえは、あれ、じゃないのに、どうして? ってきいたら、はずかしがりやさんなの、って、おかあさんがこっそりおしえてくれた。
「……うん。ユキも、ユキだって、おかあさんにひどいことをするひとはやだよ。でも、おかあさんのことをすきってきもちは、ユキやおとうさんといっしょだよ」
おかあさんのたましいがなくなってしまうんじゃないかとおもったときは、とってもこわかったし、どうしてそんなひどいことするんだろうって、やこのことがきらいになった。
でも、やこは、おかあさんのことがすきで、それでずっといっしょにいたいとおもっていた。なにより、おかあさんが、そんなやこのことをとっくにゆるしている。だから。
「だから、ちゃんとまってあげて! おかあさんと、おはなしさせてあげて!」
「言葉を交わしたとして、その先はどうなる」
「……先?」
スーちゃんの、ふしぎそうなこえ。ユキも、おなじことをおもった。
さきなんて、ひとつしかないのに。おとうさんは、なにをいっているんだろう。
「……やこは、きえちゃうよ? だから、おかあさんは、さいごにおはなしして、ちゃんとおわかれしようと――」
「娘のお前が見誤るのか。あれが、その程度の器だと」
みあやまる。うつわ。おとうさんは、ときどきむずかしいことをいう。いまもよくわからなかったけど、でもユキのかんがえがまちがってるかもしれないということはわかった。
「お前に問う、狐守」
おとうさんのしせんが、スーちゃんにむけられる。こんどは、スーちゃんもおどろいたりしない。ただ、ユキのせなかにあるてに、ほんのすこしだけちからがはいった。
「――あれは、狐守になるべきか」
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