日常

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「いい匂い」 「あ、ありがとうございますっ!」 引かれた椅子に腰掛けるとすぐに溢れた声に反応したのは 三崎の下についている天井(あまい)さん 肩にかかる黒髪を後ろで一つに括り 紺の作務衣から覗く肌は筋肉質 顔は中世ヨーロッパの彫刻に似て彫りが深い 元が料理人だったのか、センスの良い彼が作る料理はどれも美味しい 毎回素直に反応を示してくれるのも なんだか心地良い それなのに 「天井」 名前を呼ぶだけで黙らせた三崎 その低くて冷たい声にビクッと肩を震えさせるとキッチンへ消えた天井さん 「チッ」 ムカつきを舌打ちに込めた私に 「愛様、舌打ちはおやめください」 天井さんへ向けた声より穏やかな口調で諌める三崎に 刺すような視線を送った後で箸を持った お味噌汁のお椀を持ち上げたところで聞こえたのは、喉を鳴らして笑う三崎の声 「クッ、愛様」 ここで‘何’と返事すればその理由もわかるかもしれないけれど そのまま完璧に無視をした 三崎は天井さんより線が細い かといって筋肉がないようでもなく 短髪の黒髪を後方に撫で付けた髪型は 少女漫画に出てくる王子様的な顔によく似合っている 親への反抗期がない分 三崎相手に喧嘩を吹っかけている私は 喉を鳴らして笑われる程 子供だと思う 自覚がある分 敢えての指摘は更に八つ当たりの原因になるから お互いに不可侵を決め込むしかない
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