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一度事務所へ戻ると
碧斗に断って組員を動かした
動かせるのは組員だけで
愛の配下で目をしている街の奴らは
愛の指示が無いと動かない
従順な関係にため息を吐いて
思い当たる場所へと車を走らせた
しかし・・・
今日の今日まで愛は一人で出かけたことなんて無い
幼い頃にあった誘拐事件がキッカケで親父が護衛を強化したことを発端に
過剰な程に守ってきた結果だ
愛の記憶にも残ってないそれは
三歳で中国系の侵攻勢力に攫われるという衝撃的な事件だった
元々張り巡らせていた田嶋の目によって解決は早かったものの
余程恐ろしい思いをしたのか
泣きながら魘される愛の姿を見るに耐えなくて
意図的に記憶を操作された
もちろん・・・
関わった全ての輩の四肢を消したのは激昂した親父
今思い出しても気分が悪くなるほどの仕置きは
龍神会をも揺るがす最悪の惨事だった
[田嶋の仕置き部屋]
恐ろしい程に冷たい空間
それが出来たのもこの事件がキッカケだった
この誘拐で愛に付ける護衛から
街中に配置する目が増えた
愛自身には護身術を徹底的に教え込んだ
ただそれは・・・
護身より攻撃を主としていた
そのことを知ったのは随分後のことになる
仕事で使う通り名を決めたのもたぶんこの頃だろう
そうやって自動販売機でジュースを買うことすらないまま
猟奇的なまでに守ってきた愛
その愛の行きそうな場所なんて皆目検討もつかなかった
「クソっ!!」
やり場のない怒りをハンドルに打つける
『また連れてきて』
そう言った愛の言葉を思い出して来てみた海岸線も
シーズンには早すぎて
犬の散歩以外に人は居ない
ピリリリ
音量を上げた携帯が手の中で鳴り始め
表示に浮かぶ名前に指を動かした
(一平、戻れ)
「・・・あぁ」
碧斗の電話に
愛の捜索を今は諦めることにした
車を走らせて繁華街へ戻る
事務所へ入ると
引退した古参の組の娘が座っていた
「遅いじゃない!一平!」
勘違い女を一瞥すると
碧斗の待つ奥の部屋へ入った
「なんだ?あの女」
苛立ちを隠せずいると碧斗が
苦虫を噛み潰したような顔をした
「相手はしなくていいそうだ
ただ繁華街をエスコートして歩けと」
「あ゛?」
「自分の肩書きを上げるためらしい」
「は?」
自分のために一ノ組の組長と若頭を使うというのか・・・
呆れた俺の顔を見た碧斗は
「今晩だけ聞いてやれ、明日は組ごとぶっ潰す!今夜のこれを死ぬほど後悔させてやる」
怒りの炎を纏った
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