思慕(side一平)

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大澤所有のバーで 上機嫌の女にワインを勧めると 携帯を確認する あれから颯の連絡はない 愛を無事連れ帰ってくれただろうか 連絡がないことは状況が いい方に進んでいると解釈して 「もういいだろ」 何杯目かを呷るように飲み干す女を連れ出した 外に出た途端に出来る人集りにもウンザリする 当たり前のように隣に立った女の 高いヒールの覚束ない足下がグラリ揺らいだ 「チッ」 嫌々ながら腰を支えると 「一平」 人集りに見せつけるように俺を呼んだ 俺の名前を呼んで良い女は愛だけだ 苛々する表情を読み取ってくれたのか 「そろそろ解放してあげる」 呂律の回らない口調で薄く笑った 聞き分けができたことに ホッとして頬が緩む 途端に人集りから悲鳴のような女達の声が上がり 事務所へ戻ろうとした刹那 「愛!!」 遠くで叫ぶ颯の声が聞こえた 声の方向へ視線を向けた途端 人集りの中に愛を見つけた ・・・なんでだ 「愛」 泣いている愛の顔が歪んで見えなくなった 「退けっ」 隣の女を突き放し 人集りを掻き分けると 倒れた愛を支える颯がいた 「どうした!」 無理やり颯の手から愛を奪うと 腕の中に掻き抱いた 「愛!」 何度も呼びかけるのに 涙を流しながらうわ言を溢す愛の反応が薄い 「連れて帰る」 颯を付き添わせて 車に乗り込んだ
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