家業

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兄から依頼を受ける時は 呼び名が(まな)に変わる 『お前を守る為だ』 父はかつてそう口にしたけれど それにどんな意味があるのか 特に興味もなかった 。 熱めのシャワーを浴びて眼を覚まし コーヒーメーカーのスイッチを入れるとルーフバルコニーへ出た 「真っ暗」 12月の朝は中々明けない ガシガシと濡れた髪を拭きながら 「風邪ひいちゃうね」 誰に聞かせることもない声が溢れた 体温の上げ下げをしたところで 部屋に入ると大きめのカップにコーヒーを注いだ 携帯の録音を再生させて 苛々の内容を反復すると〈仕事部屋〉としている部屋の扉を開けた フゥと長い息を吐き出すと モニターの並ぶデスクの前にカップを置いた 【篠宮陽菜(しのみや ひな)18歳】 兄からの依頼で知り得た情報はこれだけ 「毎度毎度、雑よ!」 誰に聞かせる訳もない苛立ちを モニターにぶつけた 臨戦体制を取ったのに・・・ コーヒーがなくなるまでの短い時間で 今回の依頼の高校生の情報が掴めた 「なによっ!」 簡単に出てきた情報に苛々が募る 余りに平凡な‘篠宮陽菜’に 私が調べる程のことかと深いため息を吐き出した 兄へのデータを整理しながら ‘篠宮陽菜’の両親の借金の額で指が止まる 「3億?」 高々個人の借金にしては額が大き過ぎる 「要はココね」 少し口角を上げると キーボードへ意識を向けた
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