日常

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朝食を済ませると自然に引かれた椅子から立ち上がった 分厚いカバンは既に三崎が抱えている キッチンの脇を通る時 視界に入った天井さんに 「ごちそうさま」と声だけ落として玄関へ向かった 「は、はいっ」 ワンテンポ遅れて背中に聞こえた弾む声に ほんの少し口角を上げた 揃えられたローファーを履くと 控えていた三崎が玄関ドアを開けた 広い廊下を抜けると扉が現れる セキュリティを解除して開かれた先に一階までのエレベーターが現れた 何故か開いて待っているエレベーターに乗り込むと一階のエントランスまで降りた そこから地下駐車場へのエレベーターに乗り換える 「三崎、今日は迎えに来なくて良いわ」 ルームミラー越しに声を掛けると 三崎の纏う空気が変わった 「どこかへお出掛けですか?それなら・・・」 どこまででもお供しますと言いたげな顔を見ながら 「一平が来る」 それ以上の詮索をさせない名前を発した 「・・・承知しました」 テンポが遅れた返事は 納得いかない想いを含んでいて それでも 兄を差し置いて出張ることは出来ない身分 苦虫を噛み潰したような顔を見て 今朝の苛々が消えた気がした 街中故の朝のラッシュに巻き込まれながらも スムーズに正門まで到着した 三崎が助手席から降りて後部座席のドアを開けるまでに ポケットの手鏡で髪を整えた 「愛様、いってらっしゃいませ」 手渡されたカバンを持って 一度も三崎の顔を見ることなく正門をくぐった
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