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「なーんてこと、あるわけないか!」
そう言って麦わら帽子の乙女は立ち上がり、あくびをして浮かんだ涙の粒を指先で払うと、足元で干からびてピクピクしている大みみずを見下ろしました。何があったかは知りませんが、もうこのみみずは助からないのでしょう。自然の摂理です、仕方がありません。
「あっこら、サトミ! いけません」
急に自分の名前を呼ばれて、乙女は驚いて顔を上げました。小さな白い犬が乙女の足元を嗅ぎ回っていたかと思うと、嬉しそうにみみずを咥えて走ってゆきました。その先で飼い主らしき中年女がキンキンと叫びました。
サトミというのは乙女の聞き違えでした。
「ああもう、サトリは本当にバカなんだから。みみずなんか、ばっちいから捨てなさい。ほんとにサトリはダメな子ね。ネハンはこんなにいい子なのに、どうしてまったく……」
飼い主の足元で同じような大きさの黒い犬が何やら誇らしげにふんぞり返って、サトリと呼ばれた白い犬はシュンとなってみみずをぽいと吐き捨てました。
「サトリは悪い子だから、おやつはナシですからね。そんなに好きなら一生みみずでもかじっていなさい。ネハンちゃんはいい子だから、帰ったら涼し~いお部屋でおやつでちゅよ」
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