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side 凪
私は今、理事長室の前で中の方々を待っています。それは明日からこの学園に入学する外部生の方々を案内するためです。私はそのうちの一人·····藤華のことを考えています。
藤華は顎くらいまでの長さでカールのかかった白髪に藤色の瞳を持つ、今までに見た事がないくらいの美少年です。初めて見た時は天使と見間違う程でした。
「ふふっ」
私は先程のことを思い出し、思わず笑ってしまいます。
あの時計を、捨てなくても、忘れなくてもいい、それどころか、してはいけないと言うのは藤華が初めてでした。それが嬉しくて、嬉しくて、お爺様が生きていた証を、お爺様が存在したということを、他人に認められた気がして。
今朝、藤華達を迎えに行った時のことを思い出します。
最初に藤華に「ありがとうございます」と言われたのがきっかけでした。こんなことでお礼を言う人がいるなんて、と思いました。でも、それがなんだか嬉しくて、本当の笑顔が出てしまいました。家族以外に本当の笑顔を見せたのは何年ぶりでしょう。
そして、もう一つ驚くべきことが起こりました。それは夏樹に私の笑顔が偽物だとばれていたことです。私は本当の自分を見つけ出してくれたようで嬉しくなり、「友達になっていただけませんか」と聞いてしまいました。初対面で失礼なことを言ってしまったでしょうか。という心配をよそに、夏樹は快く承諾してくれました。心を許せる拠り所がもう一つ出来た。と、嬉しくなりました。
でもそれ以上に、藤華がそのことに気付いていることを知った時の方が嬉しくて。
私は恋をしたのだと気付きました。
私は恋をしたことがありません。でも、気付けない訳がありませんでした。だって、藤華が、狂おしいほどに愛おしい。そんな感情が私を埋めつくしてしまっているからです。
『気付けば恋、続けば愛』そう教えてくれたのはお爺様でした。
きっとこの気持ちはずっと続きます。恋のままでは終われないんです。
でも、きっと愛って独りよがりではなくて二人で育むものだと思いますから
独りよがりのままではいられません。
そこでふと思い出したことがあります。それは「お爺様に似ている」と言った時の藤華の表情です。一瞬悲しい表情をしたような、そんな気がしたのです。気のせいかもしれませんが、やはり気になってしまいます。彼の過去に何かあったのではないか、と。
そして私にその話を聞く日がくるのか、と。
side 凪 end
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