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外の景色はみるみるうちに変わっていき、視界に森しか映らなくなり、1時間半程たった頃、やっと学園が見えてきた。
「藤華様、聖、着きましたよ」
野仲さんはそう言って車を停めた。そして車から降り、僕の方のドアを開けてくれる。
「ありがとうございます」
「いいえ」
僕がお礼を言うと、そう言って笑顔で返してくれる。
「では、俺はこれで、休みの日なんかに帰ってくる時はまた電話してください」
「はい、ありがとうございます」
そう会話を交わした後、車に乗って走り去って行った。
「さて、時間までまだ少しありますね」
奈緒は自分の腕時計を見ながら言った。でも、僕には少し不満があった。
「ねぇ、奈緒。今、二人だよ?」
「ん?あぁ、もう少し待ってような、藤華」
「うん、正解」
僕は、はにかむように笑ってそう答えた。
僕と奈緒は二人の時はタメ口だ。それは、僕達は主従関係である前に友達だからだ。これは小さい時からずっとそうだ。でも偶に、主従の時のまま話し掛けてくることがある。そういう時は、僕がさっきみたいに言って二人の時の口調に戻すのだ。だって、二人の時まで主従みたいに話してたら寂しいから。
「はぁ、おま···不意打ちは駄目だろ」
奈緒はそう言って片手で顔を隠し、僕から背ける。でも、耳がうっすら赤くて、照れていることが分かる。
友達なんだから照れることないのに。
なんだか奈緒の反応が可愛いくて、思わず笑い声が漏れる。
「ふふっ」
「こら、笑うな···!」
「ふふっ、だって、奈緒、可愛いんだもん。ふふふっ」
そう言うと奈緒は少しいじけて、顔を僕から逸らす。それすらも可愛いく思えた。
「おーい、そこの奴!!」
すると上からそんな声が降って·····
って、上?!
僕は咄嗟に上を向いた。そこには門に登っている、もじゃもじゃの髪に瓶底メガネの男の子がいた。
僕はビックリしすぎて目を見開いたまま上を向いていた。数秒してハッとし、辺りを見渡した。奈緒はまだ呆然とそちらを見ていた。そして僕はその男の子に話し掛ける。
「えっと·····ど、どうしたんですか?そんな、ところで·····?」
「俺、明日からここに通うんだ!!でも、迎えが来なくてな!!」
え?まだ時間じゃないと思うけど。
そう思い、自分の携帯を見る。すると予定時刻の3分前だった。
「まだ、予定の時間じゃないからだと思いますよ。とりあえずそこから降りてきてください。危ないですよ」
「おう!!分かった!!」
そう言って門から降りてこようとする男の子。でも、その途中で足を踏み外し、落ちてくる。
「うわ!!危ない!!そこどけ!!」
ドシン!!
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