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「大丈夫ですか?藤華様」
「え?う、うん···って、僕じゃなくて!!大丈夫ですか!?」
そう言って落ちてきた男の子に声を掛けた。
僕は奈緒が咄嗟に腕を引いてくれたため、男の子の下じきにならずにすんだ。でも、変わりに男の子が、石畳に身体を強く打ち付けた。
「痛たた·····。おう!大丈夫だぞ!」
「良かった···」
僕はホッとして小さく息をついた。僕は心底安心した表情でその男の子に微笑みかけた。するとその男の子は顔を真っ赤にして口をぱくぱくしている。
「?、あの、本当にだいじょ·····って、うわ!奈緒?」
奈緒は急に僕の腕を引いて自分の背中のに隠した。何かを警戒しているような気がする。
どうしたんだろう?二人共。
男の子はしばらく呆然としていた後、ハッとし、立ち上がり、僕達の方へ近づいてくる。顔は心做しかまだ赤い。その男の子が口を開きかけた時
「あ、藤華様、来ましたよ」
奈緒がそう言った。奈緒の視線の先にはこちらに向かって歩いてくる人がいた。
「すみません。少しお待たせしてしまったでしょうか。今門を開けますね」
そう言ってその人は門を開けてくれる。そして僕達は門を潜り中に入る。
「初めまして。あなた方が外部生の方々ですね」
「はい」
「私はこの橋円寺(きょうえんじ)学園の生徒会副会長をしている、3年の三澤 凪(みさわ なぎ)と申します」
そう言ってにこ、と愛想笑いを浮かべた。それでも、とても綺麗だと思った。それはたぶん容姿も影響しているのだろう。彼はさらさらなストレートの黒髪に灰色の瞳で、とても美人な人という印象だ。
これで、本当の笑顔ならもっと綺麗なんだろうな。
「僕は佐々浪 藤華(さざなみ とうか)と言います。よろしくお願いします。そして彼は·····」
「藤華様の専属執事の聖 奈緒と申します。よろしくお願いいたします」
「お、俺は宮古 夏樹(みやこ なつき)だ!···です。よろしくな!···です」
それぞれ紹介が終わると三澤先輩はまた、にこ、と愛想笑いを浮かべ、口を開く。
「はい、よろしくお願いいたします。では、まず理事長室へとお連れします」
そう言って、歩いて行こうとする三澤先輩に宮古君が話し掛けようとしている。でも、その前に僕が話し掛けていた。
「あの、三澤先輩」
ごめんね、宮古君。でも、これだけは言っておかないと。
そう心の中で宮古君に謝罪し、口を開く。
「態々迎えに来ていただいて、ありがとうございます」
そう、微笑んで伝えた。すると、一瞬驚いた表情をしたあと、微笑んでこう言った。
「いえ、頼まれたこととはいえ、仕事ですので」
僕はその笑顔が本当の笑顔だと分かった。見た事がなくても分かってしまう程に綺麗だったから。
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