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地下への階段をおりていく。
ドアをあけると、やはりヤツはそこにいた。
カウンターの前のソファに、深々と背をもたせ、電子タバコを吸っている。
おれが入っていくと、スキンヘッドの頭を少しだけめぐらせ、こちらを見たが、すぐに興味を失った様子で、顔をそむけた。
「いい御身分だな、マサ。こんなところで御休息か」
かたわらに立って、ヤツを見おろす。
開襟シャツの襟が必要以上に開かれ、金色のチェーンのネックレスが見えている。
「ひと仕事終わったんですよ。一服して、なにが悪いんです?」
マサはおれのほうを見ようともせず、唇の端を皮肉っぽくゆがめた。
「おい、あれが目に入らないか?」
おれは壁のほうを指さした。〈禁煙〉と書かれた紙が貼ってある。
それを目の動きだけで見たマサが、「ふっ」と小馬鹿にしたように笑った。
「禁煙? 煙を禁ずる、でしょ? これのどこから煙が出るってんです?」
そう言って、手にした電子タバコをおれのほうへ突き出して見せた。
電子タバコだから、煙なんて出ないじゃないか。そう言いたいわけだ。
「てめえ、逆らうじゃねえか」
「へっ、そっちこそ、アニキ風吹かせやがって」
「くやしかったら出世すりゃあいいんだよ。おい、マサ、てめえ、おれに隠してることがあるだろう?」
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