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おれは反撃されないよう、うしろから腕をひねり上げたまま、エレベーターに乗り込んだ。さすがにこの姿勢のまま、階段を使う度胸はなかった。
三階で降りた。
廊下で、制服姿の警官に出会った。
警官の目線が、マサ、おれと、目まぐるしく動き、じきにおれの上で止まった。
「ごくろうさまです、井上係長。坂下刑事と打ち合わせでありますか?」
「そうだ。暴力団山田組の抗争事件で、聞き込みに当たらせていたんだが、この野郎、放っておくと、すぐに情報をひとり占めしようとするからな。これからたっぷりと絞って、みんな吐き出させる」
「ごくろうさまであります」
「うむ」
マサが暴れ、おれが締め上げるのは、日常茶飯事なので、もはや署内のだれも驚かない。
「ちくしょう、殺せ、殺せぇっ」
「じゃかあしい! とっとと歩けっ!」
わめく坂下政男巡査部長の腕をひねり上げたまま、おれは会議室へと急いだ。
〈了〉
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