バーに来た旅人

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バーに来た旅人

私はさえない中年男、一人でバーを経営している。9/21いつも通りの日常を送っているとある男が入ってきた。(こんな朝早くに酒飲むの?)私はそう思ったがすぐに考えを振り払い、注文を聞いた。「何にしましょうか?」 「うーん、じゃぁリキュールで。」そういって男は私に向かって楽しそうに話しかけてきた。そして次の日も、その次の日も、男はリキュールを頼み、それをちびちび飲みながら誰でも引き込んでしまいそうな、それはそれは違う世界のような面白い話をしてくるのです。毎日くるこの男の話をいつの間にか私は楽しみにしていたのです。だけど今日来た男は非常にいつも通りのテンションで予想だにしない言葉を発したのです。「俺がここに来ることができるのは、今から三日後。それからはここに来ることは絶対にない。だから今日から 三日間、三つの酒を俺に出してくれ。」そう言って旅人は席を立った。 「ちょっと待てよ!」あまりにも唐突だったのでついタメ語になってしまった。「なんでいなくなるんだ??」それに応じるため、旅人はいつにもない笑顔で答えた。「んー、寿命かな。」そう言って旅人は静かにバーから出て行った。わずか三分もの時間。だけどその三分間は私の脳内で無限とも言える時間の間繰り返されていた。(くそ!混乱する...) 「死ぬ...?あいつが...?」それは非日常な話をしゃべるあいつの笑い顔やおとぎ話の小人のような楽しい声が 消えてしまうのはあまりにも突然だった。そうして私は一番端の席に座り込んで長い間、自問自答していた。それから一時間くらいたっただろうか? 魂の抜けた人形のような私の頭にふと、旅人のお話の一文が浮かんできた。 「友は言った、変わらない現実は変えようがない。だから今ではなく、未来を変えるように心がけよう。」   「そうだ...そうだ!私はあれこれ考えるより明日彼に差し上げる最高の酒を考えなきゃならないんだ。」そう言い残して私は早速自分の考えた最高の酒を造るべく、材料を調達しに行った。
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