第1話 余計な利益

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 否定する要素がないのなら、これ以上疑うことはない。こうやって少しずつ可能性を絞っていく。  千鶴さんは、僕に何かを気づかせるために、わざとこういう推理の仕方を取ってくれているのだろうか。  いや、それはないな。ひとりごとをする意味と同じで、そんな余裕があったら、早々に真相を依頼主に伝えるべきなんだから。 「だから、数字が合わないのは人件費、つまりアルバイトスタッフのお給料の部分に、なんらかのミスがあるということになる」  消去法的にそうなるのはわかる。  でも、さっきの話だと、損をしているのはスタッフの誰かだとしたら、その人が何か異変に気づいてもいいんじゃないだろうか。  ここはスルーしないでおこう。 「でも、仮にお給料が少ない人がいたら、その人が気づくんじゃないですか。直近のお給料が出てから、三日経つって言ってましたし」 「そうだね。自分の損を黙って見過ごすとは考えにくい。でも、どうかな。蓮くん、アルバイトってしたことある?」 「大学生のときは、それなりにやってましたよ。それこそ、飲食店も経験あります」 「そのとき、毎月の自分のお給料って、入金される前にちゃんと把握してた?」 「そう言われると……自信ないですね。今月はお金が欲しいってときは、結構計算もしていましたけど。まぁ、したとしても時給と勤務時間をかけ算して、ざっくり見積もりを立てるくらいでしょうか」
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