第一話. オールド・ラング・サイン

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「何でしょう、(るい)さん」  律は淡々と聞き返す。  うぐいす色の地に白牡丹の刺繍が綺麗に彩られている着物に、濃い抹茶色の女袴、そして足元はこげ茶色の革ブーツ。その小さい顔の顎のあたりまでなびいている艶やかな黒髪は、リボンでぎりぎり結ぶことができないくらいの短髪だ。白玉のように滑らかな白い肌と、凛々しさを漂わせる整った切れ長の目といった律の容姿に、その髪型は異様なまでに似合っている。やや長髪の美少年だと聞かされれば、誰もが信じてしまうのも無理もないほどに。  呼びかけに反応した律の前で、藍色の着物を着た青年が手に持っていた新聞を机の上に置く。彼はにっこりと笑いながら飴色の机の上で頬杖を突いた。 「その歌、それ単独での歌じゃないってことは知ってるかい?」  落ち着いた着流し姿で座った状態のままそう言い、類は律を見上げる。  無造作に遊ばせたその黒髪ですら洒落て見えるほどの優雅な美男、それがこの東雲(しののめ)類という男だ。そんな彼に流し目で見上げられてみれば、どんな女性だって胸をときめかせずにはいられない――側から見ればそんな場面ではあったものの、律はただため息をついて顔をしかめただけだった。 「……すみません。今の聞こえてましたか」 「うん、残念ながらばっちり。君ってたまに機嫌がいいと小声で歌うよね。何か良いことでもあった?」
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