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この男は本当に油断も隙もない、と思いつつも律は顔を引き締める。今のは自分が悪い。少しばかり浮かれているあまり、気を緩めてしまっていたのだ。
「それはともかく、さっきの質問のことですが」
「うん君、今さらっと話逸らしたね」
そう言いつつも、「なんだい」と返しながら類は首を傾げて見せた。
「類さんが言いたいのは、さっきの歌はあくまでも都々逸の最後の部分でしかない、ってことですか?」
「その通り! 全く君は話が早くて助かるよ。流石は私の右腕だ」
指をぱちんと鳴らしながら類が微笑む。律は心底ため息を吐きたい気持ちをぐっとこらえ、「だから何だ」と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「何事も、全貌をちゃんと把握することは大事だからね。残りの歌詞はちゃんと言えるかい?」
「……『半髪頭を叩いて見れば、因循姑息の音がスル。総髪頭を叩いてみれば、王政復古の音がスル』。――これの最後の部分が、ザンギリ頭の下りですよね」
都々逸とは、七・七・七・五調で歌われる俗謡だ。今話題に上っている『ザンギリ頭を叩いてみれば』の語彙が有名な歌もこれの一種で、確かあれは新聞雑誌に載ったことで有名になったのだったか。かくいう類も、その『ザンギリ頭』の一角だ。この男、新しモノ好きなのである。
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