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「あとで答えますね」
栞は細長いペティナイフを使い、グレープフルーツの皮をむいた。黄色い皮も白い皮も一緒にむいて、次に、薄皮を残してひと房ずつはずしていく。カルチェと呼ばれる作業。
栞がカルチェを終えたとき、オーブン横にあった胡桃のサブレが、ちょうどよく冷めていた。
「店長。私、こっち詰めておきます」
「よろしく」
栞は胡桃サブレを、手早くセロハンに詰めていった。慣れた作業なので、手が勝手に動く。焼き菓子を詰めながら、理想のウェディングケーキについて考える。
……やっぱり美味しいのがいいな。あと見映えするもの。
……可愛いのが好きだけど、みんなで食べるものだから。
栞の考えは、胡桃サブレをすべて詰めたときには、まとまっていた。
「仁科さん、さっきの話ですけれど」
賞味期限ラベルを貼る準備をしながら、仁科に話しかける。
「うん」
ハンディタイプのラベル貼り機に、賞味期限となる日付を入力する。そしてグリップを握り、賞味期限ラベルを包装の裏面に貼っていった。ラベルが打ち出されるときは、かしゃ、と、軽快な音が鳴る。
「私ならウェディングケーキは、流行のものを用意したいです」
「流行?」
ラベル貼り機の音と、仁科の声が重なる。
「はい。長く色あせない、定番や個性派も素敵だと思うんですが――」
かしゃ、かしゃ、と。ラベルを貼る手は休めない。単純作業はミスなしで終えれば、ささやかな達成感がある。
「――流行りものって、その時代を表すものだと思うんですよ。だから、なるべく写真や動画に残ってほしいです」
仁科は栞の答えに頷きながら、黙々とショートケーキを仕上げていた。その奥では店長の安藤が、SNS用に焼き菓子を撮影している。
安藤は写真補正をしながら、栞に笑いかけた。
「わかるなぁ。前に、豪華なイミテーションケーキとか流行ったけれど。今は主流じゃないもんね」
「店長、イミテーションケーキって、どうして流行ったんですか?」
栞は個包装の胡桃サブレを、販売の陳列棚へと運び、並べていった。
「食べられないケーキが一番に流行ったわけ、知りたいです」
「きみらしいよ」
栞と安藤の間には、ショーケースがあった。ショーケースの中には巨峰を使ったムースタルトや、七層のチョコレートケーキであるオペラなど、秋らしいケーキが並んでいる。
安藤はショーケースの中身をチェックしながら、従業員たちに話しかけた。
「イミテーションケーキの長所は、コストをかけず豪華にできること。そして長時間式場に飾れることだよ。生もののフレッシュケーキだと、そうはいかない」
安藤はショーケースの温度も確認していた。
栞はショーケースで保管されているケーキたちを前に、深く納得した。
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