シュガーでもフレッシュでも

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「仁科くん。ほかに、東山さんに聞いておくことは」 「そうですね」  仁科はグレープフルーツが飾られたショートケーキを、冷蔵庫に入れていた。 「……東山。流行以外で、いいと思うケーキは?」 「あります。あります」  栞ははきはきと、とりとめがない話をした。 「果物いっぱいのフレッシュケーキ。形は、ホールやスクエアはもちろん、ハート型やブック型もいいなって思います。ネイキッドスタイルも捨てがたいし、あとシュークリームも好きだからクロカンブッシュも――」 「東山さん、もう少し絞って」 「すみません。一番の憧れはシュガーケーキです!」 「よし」  仁科が「シュガーケーキか」と、目を細めた。 「ああいう色合い、好きだものな」 「はい。あとデザインも、可愛いのが多くて私好みです」  シュガーケーキは、世界で一番優雅といわれている、イギリス発祥のケーキだ。  洋酒を染み込ませたフルーツケーキを土台に、砂糖のペーストをコーディングして、長く保存できるケーキを作る。シュガーペーストとアイシングで施される花や宝石は、芸術的だと評価されている。  パステルカラーのものが多く、栞はその色味に魅かれた。 「好みはそれぞれですけれど……。やっぱりウェディングケーキって、見た目が華やかなもの、綺麗なものが選ばれますよね」 「そうだな。あとは写真映えか」 「思い出を再現したケーキも、人気みたいですよ」  ひと仕事を終えた栞と仁科は、顔を見合わせて話した。  安藤は店内に飾ってある、フォトブックを目で示した。 「オーダーのお客さんと話すときは、うちが作ってきたケーキを見せて、話したらいいよ。あとそろそろ、昼休憩を回していこうか」 「はい」  昼休憩は栞から入ることになった。仁科は水分を摂るために、栞と休憩室へ向かった。  休憩室は小さなスペースだ。机と椅子のほかに、ロッカーが置かれている。  栞は休憩室に入ってまず、私物のマグボトルで麦茶を飲んだ。仁科はその傍らで、ペットボトルの珈琲を飲んでいる。 「ところで仁科さんは、どんなウェディングケーキが理想ですか?」 「いや、考えたことないな。忙しいし」 「……そうですか」  栞はマグボトルの蓋を閉めると、仁科との距離を縮めた。口を結んだ表情で、ぐっと詰め寄る。
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