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1(警官side)
「またやられたよ」
三島巡査部長は、手にしていた一枚の写真をデスクの上に放り出した。写真には交番の側面の壁が写されており、中央に毒々しい赤色のスプレーで『ラックス参上』という文言が書かれてある。
「……ラックス?」
聞いたことのない単語に僕が首をひねると、部長は「ああ」と唸るように頷いた。
「若者の不良集団だよ。警察に恨みのある少年ばかりで構成されているという話だ。暴力団と呼べるほどの規模でもないから、我々もその場で注意するくらいしかしてこなかったんだがね」
僕の隣の席へ腰を下ろし、部長が続ける。
「どうも少し前にリーダーが代わったらしくて、それ以降どうも活動が激化している」
「それは……」僕が言う。
「よほど優秀なリーダーなんでしょうね」
「他人事だな」部長が苦笑する。
「まあでも、お前の言う通りかもしれないな。いくら小規模とはいえ、若者の集団をまとめるのにはそれなりの能力がいる。構成員からの人望も厚く、指導者としての資質があるんだろうよ、そいつには。……まあ、こっちとしては厄介極まりないけどな」
「違いないですね」
部長はふと思い出したように、ずっと手に提げていたビニール袋を広げ、僕の眼前に差し出した。中には、具の違うおにぎりが五六個入っている。
「ほら、一つ食っていいぞ。どれにする?」
「じゃあ、……これで」
悩んだ末に、僕は鮭のおにぎりを選んだ。残りはすべて部長が食べるのだろうか。
昼下がりの交番に、パリパリとおにぎりのフィルムを剥がす音が響いた。
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