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3(警官side)
「どうしたもんかなあ」
デスクに広げた写真たちを睨みつけながら、部長が苦々しい声で言う。この頃、彼を悩ませているものといえば、一つしかない。
何の写真か分かっていながら、僕はつい尋ねた。
「ラックスですか?」
写真から顔を上げずに、案の定部長が小さく顎を引く。
「落書きだったり、置手紙だったり……。幼稚に見えて、意外と巧妙なんだよな。構成員の顔も見えなければ、活動拠点も掴めない。意図的にこちらからは手を出せないようにしてやがる。そのうちここへ乗り込んでくるんじゃないかと思うと、頭が痛む」
そう言って、部長は親指でこめかみを押さえた。別段、気を遣うつもりはなかったが、何となく僕は「大丈夫ですよ」と言ってみた。
「そこまで心配いらないと思いますよ」
いたって真面目な表情で、僕が言う。部長は驚きと苛立ちの入り混じったような、妙な表情でこちらを見た。
「なぜそう思う?」
「ああいった集団って、構成員を装った警察官が、スパイとして内部に潜り込んでいることが多いらしいので。大ごとになる前に、内部から潰してくれるはずですよ」
僕の言葉に、部長が初めてこちらに顔を向けた。妙なものでも見るような目で、まじまじと僕の顔を見つめる。
「なんだ? まさか、お前がそのスパイだって言うのか?」
「いえ、とんでもない」
慌てて首を横に振る。
「ただ、採用試験の勉強をしていた時に学んだんですよ。そんな器用なことをする人もいるのかと、当時は脱帽したものです」
そうか、と言って部長が写真に目を戻す。室内に静寂が満ちる。
手持ち無沙汰になって何となく壁の時計を見やれば、時刻は13時。今まで感じていなかった空腹感が、思い出したように襲い掛かってきた。
「すみません、昼食を買ってきてもいいですか?」
「ん? ……ああ、もうそんな時間か」
僕の申し出に、部長も思い出したように壁の時計を見上げた。それから何を思ったのか、透明な扉越しに見える正面のコンビニと、僕の顔とを見比べる。
「またおにぎりか? たまには鮭以外も食ってみたらどうだ」
「……そうですね」笑って僕が言う。
「そうしようかな」
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