一 綺麗な小瓶

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 どの途この界隈は、古くは吉原の大火や関東大震災、そして戦火での痛手が大きい。隆盛を帯びた頃からは、人も文化も様変わりしているがその変遷を町全体で受け入れ、それこそ時間が戻ればいいと、観光地として栄えさせたい商人たちと下町風情を残したい地元民は祈りにも近い感情が()い交ぜの町なのだ。 善し悪しはともかく震災、戦災を越えて復興を繰り返しているのもこの活気づいた大衆下町が連綿と続いてきた生き様といえるのかもしれない。  片や、私のパート先辺りは喧噪(けんそう)とは裏腹で、そんな繁華街からは少し離れていているから幾らかは静かだし、ここは、ここで落ち着いてて良い処だと思う。地元浅草といっても、こちらは端っこ側だけど、お気に入り空間の住人として誇らしい気持ちとともに毎日ここいら辺りを、通勤がてらに散歩しながらノスタルジックとか、新しい文化に沸いたりする新鮮な毎日に浸れている。 とはいえこの界隈も観光地には変わりなく、休日にはこんな(さび)れたところにも観光客やゲストハウスの洗濯物が持ち込まれたりするから、普通のクリーニング屋さんとは少し毛色が違っていることは間違いないのだ。
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