一 綺麗な小瓶

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 お店の歴代遭遇したヘンテコなお客様たちの顔が、思う傍から順々に頭に浮かんできた。パート勤めとはいえ、私は3年前に売却されてお店の経営者が変わってもこのクリーニング店に居続けているから他のパートの誰より会長より古株なのだ。 話し出せばキリがないほど、土地柄だけじゃなくて、そりゃあ長くいると《変わっている》なんて言葉で片づけられないほど怪しいものが持ち込まれたり、奇妙な出来事に遭遇したりすることは自慢じゃないけど数えきれないほど経験している。 ――例えば、この界隈だからこその、僧侶の袈裟(けさ)と吉原上がりの初老芸者の年代を重ねた着物を一緒に預かる(ねんご)ろなお得意様とか、浅草カーニバルの際どい羽の衣装なんかは余裕のヨッチャンで。 およそ、何に使うか分からない怪しげな皮製下着セットが持ち込まれた日には、流石に革製品の老舗がひしめき合っているこの辺りであったって、もちろん浅草製の芸術品なんかじゃないワケで。 しかも、近頃は外国人相手のゲストハウスや、民泊も増えているらしく、経営しているのは日本人とは限らなくて、言葉が通じないことなんて年中無休。
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