一 綺麗な小瓶

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 近頃は考え事をして物忘れも激しくて家の中でも転んだりするくらい気ぜわしくて、江戸っ子の所為だけじゃないのだろうけど、周りからはそそっかしいから気を付けないといけないって、よくよく言われているから丁寧に生きようとしている……、 ――ちょっと、待って……いや、違う、何かが動いたよ!  今。眼の端っこに忽然と。ステッキを持った老人が目の前をよぎっている!!! (カラスじゃなかったんだ) なんて思う間も早々に、前から勢いよく自転車がもの凄いスピードで私の横をすり抜けていった。 「――こらあ、爺さんどこ見てんだよ!どけどけ!」 走り去った自転車からか、怒鳴り声と大きなブレーキの劈く音と同時に 「――うああ」という老人の叫び声が聞こえて、反射的に振り向いて声をかけた。 「大丈夫ですか?ひどいなあ、もう!」 倒れている老人に罵声を浴びせ、自転車は瞬く間に遠くへと走り去り小さくなった後ろ姿が米粒ほどになってすっかり見えなくなってしまった。 「そうだ!」と思い、向き直ると老人が路肩に腰を下ろして息を整えている。  
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