一 綺麗な小瓶

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「は?ウチの店は、お預かりは出来ないんですよ。それより、病院にご一緒しましょうか?後でその小瓶は取って来ますから」 「いや、ワシは急いでおる。瓶のことなら後で連絡するわい。ほいじゃあ」 「そうですか、(困ったな、どうしたらいんだろう……。でも病院にも行って欲しいし) ――分かりました。 お預かりしますけどお店には内緒ですよ。ちゃんと病院に行ってくださいね」 「おお、アンタねぇ、あれは大変珍しいもんじゃから大事になされ。使い方はまた後で教えるとしよう」 話し終わる前に通りかかったタクシーを止めると、何事もなかったように矍鑠とした足取りでそそくさと乗り込んで、あっという間に老人は消えてしまった。 ――また、おかしなお客に出くわしたわ。預かるって言ってるのに『大事にしろ』なんて、バカバカしいったらありゃしない。 昔ながらの“この地域特有”かもしれないが、浅草っ子の気質とでもいおうか、桁外れな個性といおうか、ほんとうに変わった人が多過ぎる。
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