失踪した同級生の女の子が俺の部屋の押入れにいる件

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 二学期も終わりに近づいたある日、同級生の高木愛里が失踪した。  愛里失踪の情報は瞬く間に保護者の間を駆け巡り、その日の夜には俺達生徒の間でも周知のものとなった。クラスのグループラインでも愛梨に関する情報がひっきりなしに飛び交ったが、愛里本人からは何の返答もないどころか、本人のトーク履歴にも既読マークすらつかなかった。彼女の携帯電話は「電波の届かない所にいるか電源が入っていない」という状態になっていたから彼女がメッセージを見ないのは当然だろう。  しかし彼女は少なくともクラスのグループラインだけはこっそり確認していた。副端末やPC連動などと中学生女子にとっては難易度の高い方法ではなく、彼女はもっと原始的な方法を編み出していたのだ。 「ちょっと待って。テストの成績が一番じゃなかったから家出したって私そんな豆腐メンタルに思われてるの? っていうか佐々木君が私に勝ったのって保健体育の筆記テストだけなのに」  愛里は本人の知らない所で好き勝手飛び交う投稿に、ぶつくさと文句を言っていた。  彼女がいるのは、俺の部屋の押し入れの下段。  言うまでもないだろうが、彼女が操作しているのは俺のスマートフォンである。 「ねえ、尊君。ちょっと来て」  元は俺のベッドにあった毛布にくるまりながら、愛里は事ある度に俺を呼んだ。1階にいる両親は 当然息子の部屋に失踪騒ぎの渦中にある女の子が潜んでいるとは想像もしていない。気付かれるないようにと、会話をする際には目一杯顔を近づけ、声を潜めてひそひそと囁き合うしかない。  彼女が着た俺のTシャツは彼女には大きすぎて、普段なら制服やジャージに隠されている首回りの白い肌が眩しくて仕方がないのだけど、愛里は一向に気にする様子もない。 「ちょっと見てよこれ。ひどくない? いつのまにか私に大学生の彼氏がいて、妊娠したとか言われてんだけど」  大学生の彼氏や妊娠なんていう漫画みたいな話に、俺の心臓はドキドキと鼓動を早めた。 「家庭教師が一回家に来ただけなのに。どうしてこういう変な噂が広まるかなぁ」  すぐさま飛び出した否定の言葉に胸を撫で下ろす。愛里がずっと年上の男とそういう行為をしているところを一瞬でも想像してしまった自分を、ひどく情けなく思った。  どうして愛里の変な噂が広まるかって?  そんなのわかりきった話だ。  単純に、それだけ愛里に対するみんなの関心が高い事に他ならない。  学年で一、二を争うほど成績優秀、スポーツもそこそこで何よりも眉目秀麗。男女問わず、関心を集めないはずもない。  高木愛里はクラス一、いや学年・全校で見てもトップクラスのマドンナなのだ。  そんな彼女が降りしきる雨の中、ずぶ濡れの制服姿でうずくまっているのを見つけたのは、ほんの数時間前の話だった。
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