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「な、なんで!?」
あまりにも有り得ない展開に、勢いよく起き上がって叫んでいた。
酔っ払いを家まで送り届けて、どうして「付き合うことになりました」に繋がるんだよ。
そこの間に何があったんだ。
「憶えてないんですね」
若干の不愉快オーラを纏った雪橋が「やっぱり」と呟いた。
敷布団に付いた肘で頭を支えるようにして、オレを見上げている。
目に見える部分は何も身に付けていないから、雪橋の裸体が横たわっているようにしか思えない。
同じ男の筈なのに、オレとは全く違う体格と筋肉の付き方に目のやり場に困る。
「葉山さんから告白してくれたのに」
「えっ!?」
衝撃的な一言だった。
オレから告白した?
振られると分かっているのに、同じ部署の同僚に告白なんて、そんな馬鹿な事をする筈がない。
『で、今、好きなのは、お前なんだよ』
不意に、夢だった筈のヤケクソのような告白を思い出した。
ぐだぐだに酔っぱらって、何故かオレの部屋にいた雪橋を捕まえて言ってみた告白。
嘘だろ。
あれ、現実だったのか!?
けれど、あれが現実だったとして、「付き合うことになりました」というのは展開早くない?
ベッドで朝を迎えるの、唐突すぎだろ。
そもそも、なんで服を着てないんだ。
何か、それらしきコトを致してしまったのか!?
そういう経験一切ないから、何がどうなっていたら、どんなコトをしたという見当も付かない。
とりあえず、身体に変化はないようだけど。
ドギマギしていると、上体を起こした雪橋の顔が目前に迫っていた。
「俺の事を『好き』って言ってくれて、嬉しかったんで『付き合ってください』って言いました」
雪橋の手が、耳朶に触れる。
形をなぞるように指先が滑るから、全身がゾクッと震えた。
「そしたら、葉山さんはめちゃめちゃ嬉しそうに笑って頷いてくれましたよ」
指先は、耳の後ろから首筋へ移動する。
信じ難い事を言われている気がするのに、雪橋に触れられる優しい刺激に激しく動く心臓の音が邪魔をする。
オレが「好き」と言って、雪橋が「付き合ってください」と言い、オレが笑って頷いた……?
「……マジで?」
「はい」
信じられない気持ちで呟くと、雪橋が即座に頷いた。
そんな話、信じられる訳がない。
「お前、誤解してないか?」
「誤解?」
一番可能性が高いのは、オレの言った「好き」を雪橋が別の意味で捉えた場合だ。
直前の会話を憶えていないので確信が持てないが、きっとそうだ。
そうに決まっている。
「雪橋が言ってるのは、近所のコンビニに行くとか、昼飯食いに行くとかの類だろ」
「違いますね」
「オレの『好き』は、恋愛対象としてという意味で」
「分かってますよ」
全く表情を崩さずに言われて、チュッと音を立てて頬にキスされた。
ニコニコとご機嫌の雪橋を前にして、オレは硬直してしまった。
「…………分かってんのか」
「はい」
そうか。
分かってんのか。
「服は、水を零してしまったので脱がせました」
勝手にすみません、と雪橋が楽しそうに謝るのを、どこか遠くの方で聞いていた。
まるで現実感が無い。
頭の中は、グルグルで、ごちゃごちゃで、真っ白だ。
絶対に知られたくないと思っていた想いを、酔った勢いで言ってしまっただけでなく、拒絶すると思っていた雪橋がご機嫌で笑っている。
「脱がせただけで、何もしてませんから」
しかも、オレの肌に触れてくる。
男の身体なんて、撫でても楽しくないだろうに。
「今から、しても良いですか?」
掴まれた肩を押されて、起き上がった上体が再びベッドに沈んだ。
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