01 Side 葉山-1

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01 Side 葉山-1

 それは、とある冬の日の夜。  自分のミスで一人残業する事になった日。  「差し入れです」と夕食を持ってやって来たのが、後輩の雪橋だった。  学生時代は陸上部で短距離をやっていたという雪橋は、見た目よりもがっしりした体躯に運動部特有の爽やかな笑顔と、絶対的な上下関係重視の心構えで、二年先に入社したオレに対しても気遣いを見せる。  それが鬱陶しい時もあるけど、嬉しい時もある。  その時は、腹が減っていたので、単純に嬉しかった。  空調の切れた寒い社内で、二人で近所の弁当屋の生姜焼き弁当を食べた。  食べ終わったらすぐに帰るのかと思ったら、雪橋は「手伝います」と言って笑った。  残業と言っても、パンフレットの印刷ミスで、誤植の上にシールを貼るという学生バイトにもできる簡単な作業だ。  他の同僚も、帰り際に手伝うと言ってくれたが、馬鹿みたいな初歩的なミスをして情けなくて、意地になって断っていた。  一人でも今夜中には終わる見込みだし、今夜中に終われば納品日も問題ない。  当然、雪橋の申し出も断った。  けれど、「一人でやるより早いし、退屈しないですよ」と言って帰らなかった。  そして、二人で他愛もない話をしながら作業をする事になった。  最近見つけた美味い定食屋の話、学生の時にしていたバイトの話、実家で飼っている猫の話。  話題は尽きず、楽しみながら行っていた所為かあっという間に時間が過ぎて、二倍になった労力のおかげで予定していたよりもずっと早く作業が終わった。 「残念だなぁ。もう少し、葉山さんと話していたかったのに」  最後の一枚のシールを張りながら、そんな事を言って笑う雪橋には他意はないのだろう。  きっと、オレが「付き合わせて悪かった」と気に病まないように言ってくれただけ。  雪橋はそういう奴だ。  けれど、分かっていても、ドキッとしてしまったのは否めない。  そしてそして、恋愛に免役の無いチョロいオレは、そんな事で雪橋を好きになってしまったのだった。
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