始まり

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始まり

 ふわふわと、夢見心地で気持ちが良い。  ウトウトした頭の中は、パステルカラーで、お花畑で、雲の上だ。 「葉山(はやま)さん、家に着きましたよ」  ぬるま湯に浸かっているような心地良さの中に、耳触りの良い声がした。  これは、後輩の雪橋(ゆきはし)の声だ。  ずっとずっと、影から見てきた後輩。  気付かれないように。  気持ち悪いと思われないように。 「水、飲みます?」  冷たくて硬い所に降ろされて、無性に悲しくなった。  ぼんやりとした視界に映るのは、一人暮らしをしている自分の部屋の玄関で。  ズルズルと、重力に負けた身体が、廊下の冷たい床に沈むように横たわる。 「葉山さん、起きてください」  再び雪橋の声がして、抱き起こされる。  凭れるように身体を預けて、やはりこれは夢なのだと確信する。  雪橋がこの部屋にいる筈がない。  こんなにオレの近くにいるなんて。 「ゆきはしぃ」 「何ですか?」 「オレさぁ、ゲイなんだよ。男を好きになっちゃうの」  差し出された水の入ったコップではなく、雪橋の手を掴んだ。  びくり、と緊張が走る。  夢の中でも、拒絶は辛い。  でも、夢だから言ってしまえる事もある。 「で、今、好きなのは、お前なんだよ」  ほわほわとした気分のまま、現実では絶対に言うことの無い言葉を口にしていた。
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