こどもの奴隷

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 春休みの最後に風邪を拗らせてしまい、四年生から五学年に上がる新学期、一週間遅れで登校すると、もう完全に出遅れていた。当然、席も委員会も決まっていたし、数週間前には一緒に土手で花摘みしていた友達の梨桜(りお)ちゃんは、長いおさげ髪をショートボブに切りそろえ、新しくクラスメイトになった背の高い女子と生理用品の話をしていたので、怯んで、話し掛けるタイミングを逃してしまった。  一階分だけ遠のいた窓の下のグラウンドと、既にそれを当たり前の背景として受け入れているクラスメイトたちの中で、自分一人が拙く、ちぐはぐに感じる。邪魔にならないよう席につき「誰も私に気付きませんように」と背中を丸めてやり過ごした。  そんな酷い一日の最後、帰りの会が終わる直前に、担任教師に名前を呼ばれた。 「……はい?」  突然クラス中の注目を浴びた緊張で、朝からほとんど出番の無かった声帯がよく働かない。 「木村とは幼稚園から一緒のクラスだし、家も同じ団地だったよな? 配布物が溜まっているんだけど、届けてくれないか?」 「はい」 「えー、いいなあ。あたし行きたい」 「お前は逆方向だぞ」  あはははは、と教室中が笑いに包まれる。 「じゃあ、は後で職員室に寄ってくれ」  そう言って担任が教室を出て行くと、先程「いいなあ」と発言した女子が駆け寄ってきた。今朝、友達と生理用品の話をしていた、知らない子だ。 「木村君と家近いんだ? いいなあ。千夏(ちなつ)…ちゃん?」 「ちゃんだよ。前のクラスではそう呼ばれてた」  梨桜ちゃんも遅れてやってくる。 「ちなちゃんね! 木村君、かっこいいよね。足速いし。サッカー部入るのかな? なんで学校来ないんだろ?」 「ちなちゃん、こっちは遥香ちゃん。女子の学級委員だよ。うちら、塾が一緒で前から知ってるんだ」 「あ! ごめーん! 自己紹介してなかった。あたし、山口遥香。友達になろう?」  何の嫌いもなく笑顔を向ける遥香ちゃんに面食いつつ、この美しい二人の輪に入れてもらえるらしいことに眩暈がした。
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